壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

梔子の花

2009年06月26日 22時45分04秒 | Weblog
 雨の降りそうな夜のこと。歩むにつれて、清楚な匂いがしだいに強くなってくる。梔子(くちなし)である。
 梔子は、「山梔子」とも書く。山を付けても読みは「クチナシ」である。
 梔子は、アカネ科の常緑低木で、高さ1~3メートルくらい。葉は光沢のある長楕円形で革質、梢に白色六弁の花を咲かせる。形が盃に似ているので梔子の字が当てられた。和名の「くちなし」は、実が熟しても口を開かないところから付けられた。「くちなし」という名が、そのために付けられたのではないにしても、沈黙の尊さを教えられるような、ゆかしい花である。
 咲き始めは純白だが、黄変して散る。実からは黄色の染料がとれ、乾燥させた山梔子は、解熱剤として用いられる。

        月の夜を経し山梔子は月色に     東門居

 たいていの香りの強い花がそうであるように、梔子もまた、南国が原産の植物である。日本には、ずいぶん早くから知られていて、『日本書紀』の、天武天皇十年(682)八月の条には、種子島の産物をあげた中に、「支子」と見えている。おそらく染料として利用されたもので、『和名類聚抄』にも、「木ノ実ハ、黄色ヲ染ム可キ者也」と記している。

 ところで、西洋の人が梔子の存在を知ったのは、案外、新しい時代のことのようだ。物の本には、十八世紀の中頃、インド航路の船が、南アフリカのケープタウンに寄港したとき、船長のハッチンソンという人が、満開の梔子を見つけて、それを根ごと掘り取って、鉢植えにして帰り、外国植物の蒐集家であった、R・ワーナーに贈ったのが初めであったという。
 ただし、これは八重の小輪梔子であったらしく、クチナシの仲間の植物を、英名でケープ・ジャスミンというのは、そのためとのこと。


      くちなしの匂ひ他人のふしあはせ     季 己