壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

豆の花

2009年03月22日 20時38分56秒 | Weblog
 えんどう・そらまめ等の花を総称して「豆の花」というが、古くは蚕豆(そらまめ)の花を指していた。蚕豆は天平のころ、日本へ渡来したといわれる。
 暖かい地方の畑では早春すでに咲くが、寒い地方では、もちろんずっと遅い。
 「えんどう」のピンクの花がひらき始めると、畑の日差しも和らいでくる。蝶形のふくよかな、いかにも春を感じさせる花であり、純白の花もこれまた美しい。
 「蚕豆の花」は細長く、白か淡い紫で、黒い斑点がご愛嬌である。

        そら豆の花の黒き目数知れず     草田男

 秋に蒔いたえんどうの芽が、15、6cmに伸びたところで、長い冬に遭い、霜に打たれ、雪に埋もれて、小さくいじけた葉を枯らすこともなく、持ちこたえてきたものだと感心する。
 春の日脚が伸びる一日ごとに、つぎつぎと新しい蔓を伸ばし、ふっくらと豊かな葉を広げてきたかと思うと、今日この頃は、早くも二、三輪の花を開かせ始めている。

 まだ、蝶の舞うには早い畑に、蝶よりもなお美しい豆の花が、伸び広がった蔓のあちこちに、はらりと、ひっかかったかのように咲いている姿には、「おや、豆の花が」と、思わず眼を見張らせるに十分な美しさが見られる。
 可憐でやさしく、そしてあでやかな豆の花。ただ眺めるだけならば、白花よりも、紫がかった赤花の豌豆の方がいいだろう。

        そら豆の花海へ向き海の声     展 宏

 暖かい海に突き出した岬の畑には、そら豆の花が繚乱と咲き誇っていることだろう。早いのは、もう透き通るような翡翠色の小さな莢をつけている。潮騒も聞こえてくる。

        花揺れてスイートピーを束ね居る     汀 女

 切花として喜ばれているスイートピーは、別名をジャコウエンドウ、ジャコウレンリソウといい、地中海のシチリア島原産で、日本には江戸時代末に渡来した。葉はえんどうに似て、先端は巻きひげとなる。園芸品種が多く、今では世界中に何百という栽培変種が広まっている。

        豆の花どこへもゆかぬ母に咲く     吉 男

 足弱の母なのであろう。「どこへもゆかぬ」とあるが、きっとどこかへゆきたいのだろうが、「ゆけぬ」のだ。そんな車椅子の母に、えんどうの蔓をからませた垣根を見せているのかもしれない。顔のそばの豆の花の甘い香りが、何ともやるせない感傷を呼び覚ますことであろう。

 つい先日、母に「フェレット」という自立する杖を購入した。
 ふつうの杖は、前進するとき必ず杖を持ち上げるが、フェレットには車輪がついているので、持ち上げる必要はなく、ただ車輪を転がして行く感じだ。つまり、手すりにつかまって歩く感じの歩行補助具とでも言えばいいだろうか。
 きのう早速、このフェレットを持って、春日部の菩提寺まで墓参りに行って来た。電車に乗るにもバスに乗るにも、軽くて場所もとらないので、非常に気に入ったようだ。これなら好きなところへ行けると、わくわくしながら練習に励んでいる。


      試歩のばす母にふえゆく豆の花     季 己