壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

馬酔木

2009年03月13日 23時31分33秒 | Weblog
        石影の 見ゆる池水 照るまでに
          咲けるあしびの 散らまく惜しも

 万葉の歌人たちは、しきりに“あしび”の花、つまり“あせび”の花を歌に詠んでいる。
 それも道理、大和の国の山々には、いたるところに“馬酔木”が生い茂っている。
 馬の酔う木と漢字を当てる通り、馬などが、うっかりこの木の葉を食べると、足が起たなくなったり、涎をたらして、酔ったような状態になり、死に到ることさえあるといわれる。
 奈良には鹿がたくさん飼われて?いる。その鹿だけでなく、猪・うさぎ・馬・牛などの草食動物が、馬酔木だけは用心して葉をかじらない。そこで大和の国では、馬酔木の木が異常に繁殖したのであろう。

 春も長けてくると、まだ葉の中から、小さい蕾がちらちら覗かれるが、初夏ともなると、光るような新緑の中に、馬酔木は、鈴蘭やどうだんつつじに似た小さな白い壺形の花を鈴なりにつけて、一面に花を開く。この花が、どうしてそんなに恐ろしい毒を持っているのかと疑わしくなるほど、可憐でやさしい風情を漂わせながら……。

        来しかたや馬酔木咲く野の日のひかり     秋桜子

 奈良の三笠山、生駒の山々、また東では、富士五湖や箱根のあたり、初夏の日光が降り注いで、まばゆいばかりに馬酔木の花が咲き誇ることであろう。


      馬酔木咲く崩れしままの築地塀     季 己