壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

薺の花

2009年03月06日 22時53分14秒 | Weblog
        よくみれば薺花さく垣ねかな     芭 蕉

 薺(なづな)は、アブラナ科の二年草で、田んぼや路傍に生える。春の七草の一種で別称、三味線草・ぺんぺん草。
 葉は、タンポポに似て羽状に分裂。茎の高さは30センチほどで、春もたけたころ、茎の上部に白色の小さい四弁の十字状の花を多数つける。
 花のあと、逆三角形の、三味線の撥に似た実をつける。三味線草・ぺんぺん草の名は、これに由来する。

 ふと心をとめて見ると、垣根のほとりに、薺が白く小さな花をつけているのであった。
 「薺の花というものは、ほとんど人の目に触れることもない、目立たぬ小さな花であるが、よく見ると、その薺が思いもかけず垣根の下に小さな花をつけていたことよ」と、驚いているのである。
 この驚きには深い愛情が感じられる。これが、俳句には大切だと痛感する。
 「よくみれば」と、ことさらに断わったような口ぶりは、写生の筆法ではない。
 「よくみれば」という語はつつましい語であるが、この句では動かぬ重みを内に持っている。この語が、「薺花さく」にひびいて、そのあるとも見えぬ花の開いていたことに驚いている感じが生きてくるのである。
 あまり見ばえのしない雑草の花にまで、あまねくゆきわたった春色を見て、万物はみな造化の端緒としてその所を得、自得自足していることを感じ取っているのである。


      いにしへの子持村なるよもぎ餅     季 己