壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

風光る

2009年03月14日 23時06分44秒 | Weblog
        春の日の巷は風の光りかな     暁 台

 あと1週間足らずで、春の彼岸のお中日。「暑さ寒さも彼岸まで」ということわざが、しだいに現実感を帯びてくる。
 さんさんと降り注ぐ太陽の光りは、心の底まで晴れ晴れと照り輝かし、吹き渡る風さえ、光りに満ちた明るさを感じさせる。
 春光を吹き渡る風が、光るように感じられるさまを「風光る」といい、春の季語となっている。春の風は美しい。色彩があり、光りがあり、そして人なつっこい。

 野や山の木々の若葉も艶を増し、街の家並みさえ、背筋をしゃんと伸ばしたように晴れがましく眼に映る。

        風光る乳房未だし少女(をとめ)どち     憲 吉

 斜めに低く差していた日の光りも、だいぶ高くなってきたので、建て込んだ街中の狭い庭にも、春の陽光は惜しみなく降り注いで、ようやく蕾のふくらんだ椿が、艶やかな緑の葉をまず楽しませてくれる。
 まして、広々とした野や山や海辺の、春の快さはいうまでもない。

        風光りすなはちもののみな光る     狩 行

 風にさやぐ麦の若葉に、陽炎の立つ畑土のやわらぎに、小川の流れ、池の漣(さざなみ)、静かに寄せる海の波、峯にわかれるちぎれ雲、踏みしめて立つ足元の大地から、遠く見はるかす空の果てと、春風の訪れる世界の隅々まで、光りの波がきらきらと照り渡って、冬ごもりから抜け出したばかりのわれわれの眼を、あたかも初めてまじまじと見交わした恋人たちのそれのように、面映く恥らいがちにさせることであろう。


      手の中の誕生仏よ風光る     季 己