春の日の巷は風の光りかな 暁 台
あと1週間足らずで、春の彼岸のお中日。「暑さ寒さも彼岸まで」ということわざが、しだいに現実感を帯びてくる。
さんさんと降り注ぐ太陽の光りは、心の底まで晴れ晴れと照り輝かし、吹き渡る風さえ、光りに満ちた明るさを感じさせる。
春光を吹き渡る風が、光るように感じられるさまを「風光る」といい、春の季語となっている。春の風は美しい。色彩があり、光りがあり、そして人なつっこい。
野や山の木々の若葉も艶を増し、街の家並みさえ、背筋をしゃんと伸ばしたように晴れがましく眼に映る。
風光る乳房未だし少女(をとめ)どち 憲 吉
斜めに低く差していた日の光りも、だいぶ高くなってきたので、建て込んだ街中の狭い庭にも、春の陽光は惜しみなく降り注いで、ようやく蕾のふくらんだ椿が、艶やかな緑の葉をまず楽しませてくれる。
まして、広々とした野や山や海辺の、春の快さはいうまでもない。
風光りすなはちもののみな光る 狩 行
風にさやぐ麦の若葉に、陽炎の立つ畑土のやわらぎに、小川の流れ、池の漣(さざなみ)、静かに寄せる海の波、峯にわかれるちぎれ雲、踏みしめて立つ足元の大地から、遠く見はるかす空の果てと、春風の訪れる世界の隅々まで、光りの波がきらきらと照り渡って、冬ごもりから抜け出したばかりのわれわれの眼を、あたかも初めてまじまじと見交わした恋人たちのそれのように、面映く恥らいがちにさせることであろう。
手の中の誕生仏よ風光る 季 己
あと1週間足らずで、春の彼岸のお中日。「暑さ寒さも彼岸まで」ということわざが、しだいに現実感を帯びてくる。
さんさんと降り注ぐ太陽の光りは、心の底まで晴れ晴れと照り輝かし、吹き渡る風さえ、光りに満ちた明るさを感じさせる。
春光を吹き渡る風が、光るように感じられるさまを「風光る」といい、春の季語となっている。春の風は美しい。色彩があり、光りがあり、そして人なつっこい。
野や山の木々の若葉も艶を増し、街の家並みさえ、背筋をしゃんと伸ばしたように晴れがましく眼に映る。
風光る乳房未だし少女(をとめ)どち 憲 吉
斜めに低く差していた日の光りも、だいぶ高くなってきたので、建て込んだ街中の狭い庭にも、春の陽光は惜しみなく降り注いで、ようやく蕾のふくらんだ椿が、艶やかな緑の葉をまず楽しませてくれる。
まして、広々とした野や山や海辺の、春の快さはいうまでもない。
風光りすなはちもののみな光る 狩 行
風にさやぐ麦の若葉に、陽炎の立つ畑土のやわらぎに、小川の流れ、池の漣(さざなみ)、静かに寄せる海の波、峯にわかれるちぎれ雲、踏みしめて立つ足元の大地から、遠く見はるかす空の果てと、春風の訪れる世界の隅々まで、光りの波がきらきらと照り渡って、冬ごもりから抜け出したばかりのわれわれの眼を、あたかも初めてまじまじと見交わした恋人たちのそれのように、面映く恥らいがちにさせることであろう。
手の中の誕生仏よ風光る 季 己