壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

霜除け

2008年11月19日 22時36分43秒 | Weblog
 東京のような暖地では、あまり目立ったことはしないが、寒冷の地方では、冬を迎える用意をいろいろしなければならない。これを「冬構(ふゆがまえ)」という。
        雪吊の百万石の城曇る     青 畝
        雪吊の縄しゆるしゆると投げられし     稚 魚
 冬将軍に対する必死の営みが、また美しい叙事詩・叙景詩を生む。
 金沢・兼六園の雪吊の線など、襟を正したくなるような引きしまった気をただよわせる。

        大寺や霜除けしつる芭蕉林     鬼 城
 自然を愛する心の深い日本人は、草や木にも、人間に対するとおなじく温かい思いやりを持っている。
 冬になれば、人は着衣を厚くして寒さを防ぐ。獣も、柔らかく密生する冬毛に衣更えをして、冬に備える。しかし、草や木は、寒さで傷みやすい葉を自ら捨て去って、寒さに犯されることを避けるだけである。
 だから、われわれ人間が、自分の好みにしたがって、ほしいままに庭に移し植えた、寒さに弱い植物に対しては、人間の責任において、冬の寒さから守ってやらねばならない。
 冬になって、最も恐ろしい草木の敵は、霜だという。雪はかえって、保温の働きをすることもあって、霜ほどにひどい害は与えないそうだ。

        霜除すなほ玉を巻く芭蕉より     悌二郎
        霜囲めをとのごとくそれは牡丹     青 邨
        霜覆してあるものをたしかめし     汀 女
 霜除(しもよけ)は、庭木・菜園などで、霜に傷みやすいものに薦(こも)・藁・蓆(むしろ)などで囲って、霜の害を防ぐ防寒装置で、霜覆(しもおおい)・霜囲(しもがこい)ともいう。
 松や棕櫚・芭蕉などは、新巻鮭のように、固く薦で巻くし、牡丹や芍薬などは、藁で帽子を作ってかぶせ、それぞれに風流な細工を施して、藁人形がにょきにょきと突っ立っているような姿になる。
 
        霜除や月より冴ゆるオリオン座     水 巴
 新しい藁や蓆の色が、霜除けの庭に目新しく、鮮やかな印象を与えるようになると、それはもう冬の季節が到来した証拠である。

 先日購入したオリーブの苗木2本を、植木鉢に定植してから、本日のご出勤?
 わざわざ大江戸線「青山一丁目駅」で下車し、赤坂御用地を左手に、青山通りを赤坂見附へと向かう。
 元厚生次官宅連続テロ事件の影響か、警官の数がやたらに多い。それの数百倍多いのが、御用地沿いの道の落葉の数。誰も掃除をしないのか、落葉の絨毯ならぬ落葉の蓆状態。他のビルや豊川稲荷沿いの道は、きれいに掃かれているのに……。

 目的地のニューオータニ美術館で、「日経日本画大賞展」を観る。一時間ほど鑑賞していたが、その間、出会った人は五人。静かにゆったりと観ることができた。

   21世紀の美術界を担う気鋭の日本画家を表彰する制度として創設した
  「東山魁夷記念 日経日本画大賞」は本年4回目を迎えました。
   本賞は、日本画壇の巨匠・故東山魁夷画伯が遺した功績を称えるとともに、
  これまで受け継がれてきた日本画の世界を後世に伝えることと、日々研鑽を
  積んでいる日本画家の仕事を客観的に評価し、次代をリードする画家の発掘を
  目標としています。
   「第4回 東山魁夷記念 日経日本画大賞展」は入選作全14作品を展示し
  伝統的な枠組みに縛られず、独自の世界を拓こうとする意気込みに溢れた現代
  日本画のたくましい創造性と新たな魅力を紹介します。
                          (同展チラシより転載)

 全14作品中、心惹かれた作品は8点あった。この8作品は、甲乙つけがたかったが、一時間かけて8作品と対峙・凝視して、あえて順位をつけてみた。ただし、大賞の岡村桂三郎《獅子08-1》は、神奈川県立近代美術館へ出品中のため、見られなかったので、新作での評価である。
       変人による「日経日本画大賞展」ベスト8
         1位 斉藤 典彦 《彼の丘》
         2位 間島 秀徳 《Kinesis No316 hydrometeor》
          3位 奥村 美佳 《いざない》
         4位 武田 州左 《光の采・672》
         5位 岡村桂三郎 《獅子08-1》
         6位 園家 誠二 《うつろい-1》
         7位 植田 一穂 《夏の花》
         8位 及川 聡子 《視》

 「月より冴ゆるオリオン座」を見ながら家路につく……。


      雪吊や竪琴を弾く加賀の風     季 己