壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

お酉さま

2008年11月05日 22時01分02秒 | Weblog
 ――しまった。もう少し待って64系統に乗ればよかった。
 後の祭りであった。63系統「浅草雷門」行きの都バスは、国際通りに入ったとたんにノロノロ運行。車窓から、熊手を担いで行く人がたくさん見える。そうか、今日は“酉の市”、一の酉であった。

        やはらかに人押し合ひて一の酉     金 鈴     

 酉の市は、昔は酉の町ともいい、十一月の酉の日に、鷲(おおとり)を祭る神社で行なわれる祭礼である。関西では聞かないので、江戸近辺の行事であろう。
 目黒・品川・深川・足立・新宿・横浜など、四十ヶ所にも酉の市は立つが、最も賑やかなのは、やはり、浅草のお酉さまである。

        たかだかとあはれは三の酉の月     万太郎

 以前は竜泉寺と言った、浅草千束の鷲(おおとり)神社が有名で、お酉さまと呼ばれ、開運・商売繁盛の神として庶民に親しまれている。一の酉、二の酉、三の酉と呼び、三の酉は、おおよそ二年に一回めぐり、三の酉まである年は火事が多いといわれている。おそらく、家中総出で酉の市の賑わいに現を抜かしていれば、火の用心もおろそかになることだろう。それが二度より三度ある年は、統計的に火事の回数も増えるというものである。今年は、その三の酉まである。お互いに火の元には、十二分に気をつけましょう。

        俳諧の慾の飽くなき熊手買ふ     風 生

 酉の市で売る縁起物の一つで、代表的なのが竹製の熊手である。福徳を掻き込むという意で、神社の参道や境内を中心に、おかめなど縁起物の飾りを付けた熊手を売る市が立つ。掌ほどの小さなものから、七、八尺にも及ぶ特大のものまで、立ち並ぶ露天で威勢よく売っているのを、思い思いに参詣者は買って帰る。

        小さき熊手小さきおかめ星を得ん     碧蹄館

 酉の市の熊手も昔は、家庭の実用品として売られたものであったが、今では全く縁起物の装飾品となっている。
 竹の熊手に、おかめの面や七福神・宝船・打出の小槌・大判小判・大福帳に松竹梅・鶴亀・米桝など、縁起のよいものを片っ端から飾り付けて、大きなものはウン百万円という高値のものまである。

        大熊手まだ人波を抜け切れず     暮 春
 とか、
        人波に高く漂ふ熊手かな     青 峰
        夜を寒う熊手のおかめ笑ひけり     八 束

 などという句が生まれて来る所以である。

        七味屋にまづ灯の入りぬ一の酉     三十四

 数町にわたって、蒸した八つ頭に笹竹を通した“頭の芋(とうのいも)”や七味唐辛子などを売る露店が立ち並ぶ。頭の芋は、人の頭(かしら)に立つという縁起を祝ったものであろう。
 そう言えば、酉の日に、このお祭りが行なわれるのも、鷲(大鳥)神社という名前から来たものである。
 現在、浅草のほかにも関東を中心に広く行なわれているが、新宿の花園神社はその一つである。


      寅さんに似た顔 小さき熊手買ふ     季 己