こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
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医師のムンテラ

2012-03-26 21:59:30 | 訪問看護、緩和ケア
ムンテラとは、業界用語で医師が患者に病気や病状の説明をすることを言います。
欧米では、この言葉の代わりに、"Patient Education"というのだそうですが、このムンテラは、人の人生を左右することがあると言う事を、知らないドクターがまだいます。

昔、先生の励ましや「大丈夫だよ。」の一言で、すぐに元気になっちゃうことを、「さすが、先生のムンテラマイシンよく効くわ。」と言っていたことがありました。
それほどまでに、医師の言葉は患者にとって重いのです。

筋委縮性側索硬化症。
その病名を告げた時、その医師はその進行の速さと、いずれにしても最後は亡くなるのだと言う事を、いともあっさりと、何の躊躇いもなく、相手の表情も見ることなく告げたそうです。

もちろん、病名はちゃんと告げるべきですし、経過をお伝えすることは必要です。

でも、告げるときの言葉の選び方や態度は、医師以前に人としてどうあるべきなのか・・・。
辛い病気の宣告の中でも、精いっぱいの治療と支援をしたいのだという思いがあれば、それはおのずと伝わります。

当然、その衝撃は尋常ではありません。
どれほどの絶望と、どれほどの苦しみなのか、それはもう、私たちにははかり知れないことです。

呼吸筋の麻痺が出始めると、何をするにも息苦しく、特に眠りにつくと呼吸がうまくできずに、目が覚めます。
呼吸がうまくできない、うまく息が付けない。
そう言う訴えに、医師は鼻マスク式の人工呼吸器を勧めたそうです。
そして、「あ、こう見えてもこれ、人工呼吸器だから。」と。

彼の心は、もうそこで止まってしまいました。フリーズ。

「人工呼吸器は付けない。もうどうせ死ぬんだったら、誰の迷惑もかけたくない。何もしないで早く死ぬ。」
「あの先生のところに行くくらいなら、このまま家で死なせてほしい。」

それでも、あまりの苦しさに受診をすると、病棟から降りてきた医師は「何しに来たの?」という言葉。

彼は、入院したことで違う医師が主治医となり、初めて暖かい声掛けや、ちゃんとした病状説明を受けることが出来ました。
そのため、その医師の勧めで鼻マスクの呼吸器も試しましたが、彼のなかではすでにそれは受け入れがたいものとなっていて、「やっぱり合わない。」として酸素だけで退院することになりました。

退院したら「元の主治医に戻る」という話を聞いて、毎日のように妻は泣きながら電話をしてきましたし、本人は「もうあの先生なら病院にはいかない。」と言ったりしました。
妻から、入院中の主治医に、退院後も継続してほしい事を懇願し、なんとかあの医師から離れることが出来ました。

でも、今もあの時の言葉が彼の心を氷つかせたままです。

あの時、NIPPVがただの人工呼吸器ではなくて、夜快適に熟睡し、昼の日常生活の範囲を広げるために、とても有効なツールの一つだと、QOLを上げ、家族の負担も軽減できるための物なのだと話してくれたら、もしかしたら彼にとって、NIPPVは絶望の器械にはならなかったのではないかと・・。

この苦しみのなかでも、彼にとって残すべき事、伝えるべき事、やるべき事の大切さを見出せる可能性を引き出せるような対話があれば、きっと彼と彼の家族が、これほどまでに絶望せずに済んだのではないかと・・・

どんな言葉も、彼の心には届かないかもしれないけれど、切り捨てるような言葉ではなくて、それでも私たちは、あなたの力になりたいのだという事が伝えられれば、どうしようもない時の、心のよりどころになり得たかもしれないと、悔しくて、悔しくて・・。

言葉は、人の人生をも左右するのです。
ムンテラのせいだけとはいいません。
けれど、医師の言葉や態度が、時に人を勇気づけ、時に奈落の底に突き落とすほどの影響があるのだと言う事を、どこかで学習してほしいものだと思います。(って、教えられてわかるのではないですが・・)
今日、誰かが言ってました。
「神経内科じゃなくて神経無いか!だよ。」

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4 コメント

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いやいや・・(~_~;) (こぶた部屋の住人)
2012-03-30 01:02:52
先生のムンテラは、何度かご一緒しましたが、患者さんはとても納得されていましたよ。
それに、誰がどう話しても、完璧な会話なんてありえなし、全部受け止められる方もいないと思います。
ただ、気持ちは伝わるし、真実を知ることで、そこから何かを見出せる可能性があれば、それはいいムンテラだと思うのです。

数日前、彼が担当看護師にこんなことを言いました。
「物事には順序があるだろ?たとえばトンカツ。豚肉に小麦粉をつけて、卵を通して、パン粉をつけてから揚げる。でも、あの医者は、俺をいきなり油に突っ込んだんだ。」と。
衝撃的な言葉です。
もし、自分が話した内容が、相手にとってこんなに激しい怒りの感情にかわっていたと知ったら、私ならしばらく立ち上がれないかもしれません。言葉で伝えるとは、かくも難しいことなのですね。
私たち医療者が、当たり前の日常になっていることが、実は世間一般では、とんでもないことなのだと、肝に銘じて話をしなといけませんね。
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語弊 (Yamamoto)
2012-03-29 11:03:31
この担当医の件は酷いですよね。
>苦しみを理解するという、根本的な資質に欠けているとしか思えません。
激しく同感です。

コメントはこのDrとは別問題で、
持論として残しましたが、
ちょっと語弊がありましたね
>患者が担当医の着陸姿勢を見抜く余裕があればいいですが
言いたかったのは、患者さんはDrを選べないし、
Drからの説明方法を選べないと言いたかったのです(^^;
Drだって相手が軟着陸を望んでいるのか、
急降下着陸を望んでいるかなんて分かりません。
実際の現場で軟着陸を試みると、
「回りくどい良い方するな!」と怒り出す人もいます。
バッドニュースを伝える着陸方法はかなり難しいと思ってます。

>患者の気持ちを汲むことも、家族の気持ちを汲むことも、
>相手によって少しでも受け止められるような言葉を選んだり、話し方をすることは、
>そんなに難しいテクニックなのでしょうか?
相当難しいテクニックだと常々感じています。
まだ経験年数はそんなにありませんが、
伝えなければ行けないことをきちんと伝え、
患者さんもきちんと理解できた完璧な着陸が出来たことはありません。
そう思うとこぶたさんが言う適性検査があったら、
落ちていたでしょうねぇ(^^;
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本当に悔しい! (こぶた部屋の住人)
2012-03-29 00:08:43
<患者は担当医の着陸姿勢を見抜けない限り、
Drが患者の気持ちを汲みとり、
それに合わせて着陸する必要があります。>
患者が担当医の着陸姿勢を見抜く余裕があればいいですが、こんな時に主治医の気持ちの深読みなんて出来るはずもなく・・。
医療者の基本的な姿勢として、(医療者に限らないですが)患者の気持ちを汲むことも、家族の気持ちを汲むことも、相手によって少しでも受け止められるような言葉を選んだり、話し方をすることは、そんなに難しいテクニックなのでしょうか?
これは、医師のムンテラと言う以前の問題で、人・・たとえば弱っている家族や、苦しんでいる友人に対してでも言えることなのではないでしょうか?

もし、自分が誰にもわかってもらえない苦しみを抱えていたとしたら。
自分だったらどう接してくれれば、たとえ現実は厳しくても、それをあえて前向きに捉えることが出来るようになるか。

結局、この先生は、苦しみを理解するという、根本的な資質に欠けているとしか思えません。
なぜなら、今までにも何人もの患者さんから、この先生に対する同じ怒りを聴いているからです。

医師や看護師にも、適性検査があればいいのにと思ってしまいます。
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難しいですね (Yamamoto)
2012-03-28 10:51:56
このケースはあまりにも酷いと思います。

病状説明と予後説明。
軟着陸を好むDrと好む患者。
急降下着陸を好むDrと好む患者。
双方が合うと良いのですが、
問題は軟着陸しか出来ないDr、
急降下着陸しか出来ないDr。
患者は担当医の着陸姿勢を見抜けない限り、
Drが患者の気持ちを汲みとり、
それに合わせて着陸する必要があります。
その教育は全くされていませんし、
教育で得られるテクニックでも無いと思います。
難しいですね。
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