隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0645.林の中の家

2005年09月02日 | 本格
林の中の家
読了日 2005/09/20
著 者 仁木悦子
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 287
発行日 1978/09/15
ISBN 4-06-136115-5

 

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月の「刺のある樹」(638.参照)につづく仁木作品だが、こちらは、「猫は知っていた」(164.参照)の後に書かれた長編第2作だ。この本を読んでいて、何故僕がこの本が書かれた当時、著者の作品にそれほど興味がわかなかったかの理由が少しわかるような気がした。それは、殺人事件を扱っているにもかかわらず、全体の雰囲気が明るく、読後感も爽やかだったからじゃないかと、言うことだ。
その当時の僕は、どちらかといえば、横溝正史氏の描くようなミステリアスな、禍々しい世界の方に惹かれていたのだ。しかし、今こうした仁木作品を読むと、兄妹探偵の持つ明るい雰囲気が、その当時の時代背景とともに懐かしさと同時に新鮮な印象を僕にもたらしてくれる。
特に、本作は、収束部分になってわかることなのだが、ストーリーの出発点から既に巧妙な伏線が張られているあたり、著者のミステリーの構成に感心させられる。

 

 

水原氏夫妻の外遊の間、サボテンの管理と留守を任されて、夫妻の邸に起居する兄妹のところに、ある夜奇怪な電話がかかる。
「悦子さんですね。お兄様はいらっしゃいますか、すぐこちらに来てくださるようにおっしゃって下さい。」
「近越常夫の家です。林の中の・・・・。」
悦子が取った受話器の向こうで、このように言った後悲鳴が聞こえて電話が切れた。兄妹が電話帳で調べた住所の家に行くと、そこには血に染まった女性の遺体が有った。女性は、アルゼンチン・タンゴ歌手の達岡房子だった。植物学者の雄太郎ホームズの落ち着いた細かな観察眼、語り手でもある悦子ワトソンの旺盛な好奇心の兄妹探偵コンビは、ここでも明快な推理力を発揮する。

 

 

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