隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1474.小さいおうち

2014年07月12日 | 歴史ロマン
小さいおうち
読 了 日 2014/06/02
著  者 中島京子
出 版 社 文藝春秋
形  態 文庫
ページ数 348
発 行 日 2012/12/10
I S B N 978-4-16-784901-6

 

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ながら不思議に思うのは、BOOKOFFなどで108円の本を前にしても、買おうか買うまいかと迷うことはたびたびあるのに、全く知らない作家の本を内容も確かめないで、映画化されたというだけで買ってしまうことが、これまた幾度もあるのはどういうことなのだろう?と。
これもテレビで山田洋治監督が映画化したというニュースを見て、手に入れたものだ。もちろん古書である。
映画化の話題を最近耳にしたものだから、原作の方も最近作かと思ったら、もう足かけ4年も前に出た本(本書はその2年後に文庫化されたもの)だと知り、「へえーっ」と思ったら、その年(2010年)第143回直木賞を受賞した作品だった。
芥川賞、直木賞という伝統と権威ある文学賞でも、僕の関心はもっぱらミステリー作品なので、興味を持った本が受賞作であることを読み始めて初めて知ることは稀ではない。それでもまだ直木賞の方は、割とミステリー作品が受賞することが少なくないから、時々はチェックするのだが、なにしろここで何度も言うように、文学賞があちこちで開催されるものだから、とてもとても追いかけ切れるものではない。
BSイレブンの「宮崎美子のすずらん本屋堂」にたまに登場する有名書店の店員さんの話でも、文学賞を獲ると売れ行きが違うということで、書店員の投票で決まる「本屋大賞」なるものまで作ってしまうご時世だ。

 

 

同時に、出版社にとっても文学賞同様に売れ行きを左右するものが、映像化ではないか。テレビドラマや映画化された本が書店の店頭で、大量に平積みされているのを見てもよく分かる。
僕だけでなくそうして目についた本を買っていく読者も多いのだ。書店としてもそうしたイベントは大事なものなのだが、どこの書店でもそれができるとは限らないのが本屋さんにとっては悩ましいところだろう。書店が注文を出しさえすれば入ってくるほど出版物の流通は単純ではないのだ。
日本の出版物の流通のカギを握るのが、日販(日本出版販売)、トーハンで、いわゆる取り次ぎと呼ばれる二大流通業者である。
取り次ぎはこのほかにも沢山あるのだが、なにしろ前記二社の力が強大で、1,2が日販、トーハンで3,4,5,6,7がなくて8位が××だ、というくらいだ、と言えばわかるだろうか。
2社ともに主要株主は講談社をはじめとする大手出版社だから、この2社が大半の出版物の流通のキーマンであることは揺るぎのないところなのだ。
取り次ぎは、売り上げ実績や返本率の少ない店舗に、売れ行きの見込まれる本を大量に配送する。つまり弱小書店にはほしくとも入らない状況が発生するということなのだ。残念ながら資本主義経済の流れは非常なもので、そうした状況はますます書店のランク差を大きくさせていく。

 

 

は45歳の時に勤めていた株式会社ケーヨーの仲間二人とともに、郊外型の書店をチェーン展開する目的をもって起業するため退職した。リーダーの小山氏と開発を担当する佐藤氏と、僕は経理・財務を担当するということで、その年の8月に創業した会社は、暮れの押し迫った12月に、1号店を茂原市に開店した。
小山氏は元学習参考書で著名な老舗出版社で販売課長を経験していたことから、書籍の流通に詳しかったから、書店の開設に先立って取り次ぎの選択に、あえて日販、トーハンという大手を避けて大阪屋というその次に位置する取り次ぎを選んだのだ。その目的はと言えば、取り次ぎの持つ販売店舗の中での一番を目指すことにあった。すなわち、取次に対して強大な影響力を持つというのが、小山氏の目論見だったのだ。
千葉県内に初めての大型の郊外型書店は、僕たちの計画通り大勢の客を引き寄せた。店舗の一角にはビデオのレンタルコーナーを設けて、それまで数少なく暗いイメージのあったビデオレンタルを、明るく健全なイメージに転換したコーナーは、会員登録に1,000円という負担がありながら、こちらも多くの顧客を獲得した。

 

 

そんな多少と雖も書店経営の経験を持つ僕は、書籍の流通の偏りとか、薄利の書籍販売をどこまで効率化して、利益を上げるかと言ったことの難しさが今でも頭にこびりついているのだ。その後の書店の顛末についてはまた別の機会に書いてみたい。
ところで何で僕がそんな古いことを持ち出したかと言えば、書籍の流通の偏りが弱小書店―いや、規模が小さいということばかりではなく、開店したばかりでまだ販売実績のない店舗もその中に含まれるのだが、そうした店舗にはベストセラーが見込まれる書籍は入ってこないということを言いたかったのだ。(もっとも僕のデータはかなり前のものだから、現在の状況は知らない) 仮に入ってきたとしても1部か2部で、あっという間に売り切れて、客の要望に応えることができない。そこでどうするかというと、客の注文を受けた場合は、手早くこたえるために、手分けして他の大きな店舗に買出しに行くのである。
もちろんそんなことをしていては、手間ばかりかかって赤字だ。それでも顧客を獲得して、リピーターを増やすためには、そうした努力を惜しんではならないのだ。何の話をしていたのかわからなくなった。

 

 

て、昭和初期に貧しい農村から、都会の中流家庭の住み込み女中になった、一人の少女タキが晩年になって、その当時を語るという形式のストーリーが本書である。彼女の語るのは昭和10年代初頭から第二次大戦の終結した昭和20年ころまでの時代だ。昭和14年生まれの僕は、ほんの少しだがその時代を過ごしてきており、うなずけるところも多い。
僕は直木賞受賞作であり、もう巨匠と呼んでも良い山田洋治監督が映画化を試みた作品が、たとえミステリーでなくとも、読んでおく価値はあるだろうと、読み始めたのだが、さすがに直木賞を獲得しただけのことはあって、文章は心地よく頭に沁みとおり、年老いた元女中の語りを追う筋運びも、僕などは「さもありなん」と言った感じで、読み進めることができる。
そして、何とこれはある意味正真正銘のミステリーなのだった。映画ではどういう表現になっているのか、その辺が知りたいから、DVDになったらレンタルしてみようと思う。最近は早いから、もうすでにDVDになっているのかな?

 

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