ペテロの葬列 | ||
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読 了 日 | 2014/03/30 | |
著 者 | 宮部みゆき | |
出 版 社 | 集英社 | |
形 態 | 単行本 | |
ページ数 | 685 | |
発 行 日 | 2013/12/25 | |
I S B N | 978-4-08-771532-3 |
刊本でしかも単行本を買うのはいつ以来だろう?ほんのちょっと少しばかり臨時収入があり、と言っても僕のちょっというのは文字通りほんのわずかな額だ。そうした時に僕のとる行動は子供の頃から決まっており、一つしかない。つまり本を買うことなのだ。
だが、最近歳を取ってからはそれにもう一つ、お茶菓子を買うことも加わった。4歳年下の弟などは、今でも昔の貧乏だったころの食事について、よく覚えており食べることや、味に関してうるさい。
しかし、ひもじいほどの最悪の食糧事情の時代を子供の頃過ごした割に、僕はそんな頃から食べ物に対する執着心はなかった。
だがそんな僕もごく最近になって、間食をするようになった。年を取ると食べることが楽しみになる、なんていうことを聞いてもなかなか実感がわかなかったが、ようやくなるほどと思えるようになってきたということか。
それでも僕は本か食べ物かと言われたら、やはり本を選んでしまうだろう。あまりいい思い出ではないが、中学生の頃、わずかな昼食代がほとんど文庫本に代わってしまったことが、僕の身体の生育を止めてしまったことを考えてもだ。165㎝、50㎏の平均より小柄な体は、子供の頃のそうした体験が尾を引いていると感じている。しばらくぶりに読みたい新刊本を買ったささやかな幸せをぶち壊すような話題はこの辺で。
普段はあまり見えてない人の本質などが、あることをきっかけに表に現れてしまうということがある。 著者のストーリーはそうした展開を実にサスペンス豊かに描写する。
平凡だが幸せな家族の日常の推移にチラチラっと見え隠れする悪意、そんな感じの杉村三郎一家のシリーズも三作目となった。数多くの著者の作品の中で、TOP5くらいに入れたい僕の好きな作品だ。
宮部氏の作品を読んでいると、性善説と性悪説とがせめぎあうような感覚にとらわれる。と言ってもストーリーの事ではない。著者の中にあるストーリーの組み立てに臨む考え方を想像してのことだ。
大作家の胸の内を僕が推測するなどおこがましいが、先だってBSイレブンの「宮崎美子のすずらん本屋堂」の中で、芥川賞、直木賞のイベントの紹介があって、そこでの著者を垣間見て、相変わらず可愛らしいところを残しながらも、大作家の風格を漂わせている姿と、直木賞受賞作品を推す話の内容に、見惚れて聞き惚れた。
僕は作家が私生活でどうあろうが、あるいは見た目がどうだろうがあまり関心はないのだが、たまにネットやテレビで見られる宮部みゆき氏の姿には、かわいいと言えるような容姿から、どうして怖いと思えるような傑作小説が生まれてくるのだろうと、そんなギャップみたいなものを感じてきた。
そんなところから僕は、彼女が何に対しても興味津々という感じで観察し、それが物語の種を育てているのではないかと想像するのだ。そして、幸せな家族に囲まれた自身の境遇と、その裏返しのように存在するこの世の悪意とをブレンドさせた物語を生むのではないか、と思わせる。
前述のように本書は宮部氏の作品の中でも特に好きなシリーズ作品だ。著者には珍しくシリーズが続いている作品で、「誰か」、「名もなき毒」に続く3作目である。
主人公・杉村三郎はその名前と同様どこにでもいる平凡なサラリーマン、ととらえがちだが実はそうではない。一大コンツェルンの総帥、今多嘉親(いまだよしちか)の娘を口説き落としたのだから。
別腹とは言え母親を亡くした後、父のもとに引き取られて育った菜穂子は、今多嘉親の愛娘だった。
その菜穂子と相思相愛の末、今多嘉親に条件付きながら結婚を認めさせたのだから、そうした点からだけでも杉村三郎が只者ではないと感じられるのだ。
愛の妻・菜穂子との間に桃子という一人娘もできて、幸せなサラリーマン生活と家庭生活を送っているはずの杉村三郎には、どうしたことか事件が付きまとう。
今回もあろうことかたまたま乗り合わせた路線バスが、一人の老人によってバスジャックされる、という展開が繰り広げられる。前作の「名もなき毒」が、中日新聞の系列紙に連載され、僕のとっている東京新聞にも載ったので、普段雑誌や新聞の連載小説にはあまり関心がなかった僕だが、思わぬプレゼントをもらったようなうれしい気分になったものだ。
本書も、千葉日報をはじめとする地方紙22紙に3年余りにわたって連載された作品だという。
そのせいばかりではないが、あらゆる場面での緊迫感が途切れずに進む。僕は人の心の奥底を見通すような今多嘉親の、杉村三郎に対する暖かな眼や、三郎を慕う妻・菜穂子の聡明さのようなものが、このシリーズを支えてきたかと思っており、そうした雰囲気が何よりも好きだった。だから、このシリーズは若しかしたら宮部みゆき氏のライフワークになるかもしれない、などという思いもあった。
ところがミステリー小説とはいえ、今回のような結末が待っているとは、夢にも思っていなかった。
いや、だからと言ってこれで終わりとは限らない。あきらめるのは早い。思いもかけない形でまだ続くかもしれないではないか。そうした期待も持たせる結末だ、そう思いたい。
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