大病院が震える日 | ||
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読了日 | 2010/11/21 | |
著 者 | 門田泰明 | |
出版社 | 徳間書店 | |
形 態 | 文庫 | |
ページ数 | 325 | |
発行日 | 1998/03/15 | |
ISBN | 4-19-890852-4 |
に読んだ著者の「白い野望」が面白かったので、他に同様のメディカル・サスペンスを読んでみたいと思っていた。
前回の「警察庁から来た男」と一緒に、いすみ市の古書店で見かけたので買ってきた。前の作品を面白く読んだという割には、著者のことをよく調べて見ようともしなかったのだが、本書のカバーの見返しに著者が、結構病院関連の作品を書いていることが紹介されていた。
また、古書店で気をつけて見てみよう。
こうした病院を舞台としたメディカル・サスペンスの奔りともいうべき、山崎豊子氏の「白い巨塔」はこのブログにはないが、その昔テレビドラマ化された頃(1967年)続編まで読んでいる。僕がこの読書記録を始めた頃に、パトリシア・コーンウェル女史の「検屍官シリーズ」を契機として医療関連の作品に惹かれたのも、もとはと言えば「白い巨塔」に感動したことに要因があるのかもしれない。
それほど大病を患ったこともないから、病院にはあまり縁があるとも思えないのだが、なぜかメディカル・サスペンスやメディカル・ミステリーに惹かれる。近年、インフォームド・コンセントが提唱されて、特に医療行為の上での医師と患者の間でのコミュニケーションを円滑にするということの重要性が叫ばれて、以前と比べれば大分医師と患者の距離が縮まったかに見えるが、それでもまだ我々一般の者には解りにくいのが医療や病院・医師の内側である。
著者の門田泰明氏がこのような医療に関連した小説を書くようになったのは、自身の親族の病気が元となったようだ。それにしても医療関係者でもない著者が多くの関連作品を発表していることに、驚きを禁じ得ない。
どこで読んだか、あるいは見たか記憶の外だが、以前医学界を非難した作品を発表した作家が、その筋から脅迫めいた批判を受けるということが有ったようだ。今ではそのようなことはないと思うが、後ろ暗いことのある医師や病院も中にはないとも限らないから、こうした作品が偶然にも痛いところを突いていることがあるかもしれない。
本書では、主人公が誠に清廉潔白を絵にかいたような、しかも抜群の技術をもった医師である。それに敵対する側がその親族であるという特殊な事情があるとはいえ、一つのパターンともいえる両者の確執がからむ病院内の戦いは、周囲の人間をも巻き込んでサスペンスを感じさせる展開を見せる。
台は首都圏に十二の病院を展開する誠心会病院。理事長は創設者の現台宗八郎。
その中核である東京中央病院で、消化器外科部長を務め、病院のスタッフたちを始め、患者からも人望の厚い村瀬信彦が、このストーリーの主人公である。彼はかつて現台宗八郎がが手をつけた看護師の私生児で、苦学をして今の地位を掴んだのだが、医大の学費を父である現台宗八郎に援助してもらったことに恩義を感じて、意見の食い違いがありながらも、誠心会を離れずにいる。
特に、宗八郎の息子で、脳外科部長の尚治は副院長の野田と手を組んで、何かと村瀬と衝突を繰り返している。
副院長の野田は、誠心会の創設当時からの現台宗八郎の片腕として、誠心会の発展に寄与してきたという自負があり、「医は仁術」を実践する村瀬信彦を快く思っていなかった。
そんな中で、関西からライバルの京清会病院の理事長が野田の抱き込みを画策してきた。
多様なストーリーの展開は、孤高の主人公に危機的状況をもたらすかに思える中、終盤の収束部分を迎えるのだが…。
多少の説明不足が感じられるものの、僕はこうした展開が好きなのであまり気にならない。他の作品も読んでみようという気にさせられる。
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