隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1119.警察庁から来た男

2010年11月24日 | 警察小説
警察庁から来た男
読 了 日 2010/11/18
著  者 佐々木譲
出 版 社 角川春樹事務所
形  態 文庫
ページ数 346
発 行 日 2008/5/18
ISBN 978-4-7584-3339-6

 

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月初めに読んだ「笑う警官」のシリーズだ。
僕は「笑う警官」を読んだ後、映画化されていることを知って見ようと思っていたのだが、どこかで垣間見た一映画ファンの酷評で、どうしようかと迷ってしまい、まだ見ていない。
普段は他の人の批評などあまり気にしないのだが、何故かわからないがちょっと引いてしまったのだ。
映像化されたものと原作の小説は別作品だということは、いつも感じていることなので、そのこと自体は気にしてないのだから、まあいつかDVDをレンタルしてみて見ようとは考えている。
そんなことを思いながら、たまたまいすみ市に一人暮らしをしているおふくろを訪ねた時、いつも寄る古書店で本書を見かけて、他にも気になる文庫数冊と共に買い求めた。

 

 

今回の舞台は北海道警察本部で、前作で胸のすく活躍を見せた札幌大通署の佐伯刑事や、小島百合巡査も登場する。そして、前作で事件の渦中の人であった津久井刑事もその存在を示す。

北海道の歓楽街・薄野周辺と思われる交番に二人の女性が飛び込んできた。女性人権会議ジャパン札幌事務所の酒巻純子という女性が、タイから売られて来た少女を救おうとして、暴力団員から追われて、交番に駆け付けたのだが、交番の巡査が呼んだのは少女の身元保証人だという男だった。だが、酒巻純子が見ると、男は自分たちを追ってきた暴力団員だった。

ビルの5階にあるバーの非常階段から男が落下して死亡するという事件が起こる。バーはどうやら暴力バーのようだったが、事故死ということで片づけられた。
不可解な様相を示す冒頭の二つのエピソードによって、物語の幕が切って落とされる。これらのエピソードは、後に重大な意味を持つことになるのだが…。

 

 

ReadingRabit12

 

イトルが示すように、北海道警察本部の生活安全部に警察庁からの監察が入る。警察庁から乗り込んできたのは、キャリアの監察官・藤川警視正と、種田主査だ。
北海道警察本部で出迎えたのは本部長の奥野と秘書課長の広畑。彼らは藤川らを懐柔するために夜の接待に導くのだが、監察官・藤川が協力を要請したのは「笑う警官」で、百条委員会で裏金問題について証言した津久井刑事だった。

一方、札幌大通署の佐伯刑事たちは、ホテルでの部屋荒らし事件の捜査を進めていた。荒らされた部屋の客は、暴力バーの非常階段から落ちて死んだ男の父親だった。父親はどうしても息子の死を事故だとは思わず、殺されたのだと信じており警察に再調査を依頼に来ていたのだ。

津久井刑事の協力による藤川監察官の綿密な調査にもかかわらず、北海道警察生安部には不審な点はなにも出てこなかった。
だが、どこかがおかしい、と藤川の勘は示していた。

今回は前作の「笑う警官」の時のように、タイムリミットはないのだが、タイ国との間の国際問題にまで発展しかねない問題もあり、佐伯刑事たちの捜査と、藤川監察官の調査が次第に交錯していくさまが、スリリングに描かれて、胸を躍らせる。

よく敵役にされるキャリア警察官の権威と、一介の刑事の協力が隠された事実を明らかにしていく過程が、前作同様のカタルシスを感じさせる。本書だけで十分その面白さは伝わるのだが、北海道警を舞台にした物語はまだこの後も続くようだ。通して読むことにより面白さもより増すようだ。

 

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