Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

岐阜市は「路面電車」をどう議論してきたか?(その11・後編)

2005-03-23 06:10:49 | 鉄道(岐阜の路面電車と周辺情報)
突然の存続断念を巡って、市長に対する質問が止むことはなかった。前編から続く。

<質問5>
 路面電車3線の廃止の問題について、納得いかないので市長にお尋ねする。
 7月27日に市長が断念表明したということが事実上もうだめだという判断で廃止ということになっているわけである。その断念理由は端的に言って、財政上の問題、市民の税負担に対する市民理解の問題と言われた。これで市長が言われる説明責任が果たされたのかどうか、残念ながら理解ができなかった。
 そこで時系列的に追ってみた。去年の秋の大きな社会実験以来、さまざまな団体から自治会も含めて存続要望の署名簿が提出されたり、名鉄からの撤退手続に入る旨の表明を受けて、それぞれの沿線市町との関係をやったり、一番の問題は例えば5月19日に市長がみずから岡山電鉄の小嶋社長と面談をして運行協力打診をされた。そして6月19日、助役が北方での総決起集会に出られて、決意を披瀝している。その後6月30日の沿線首長会議で急遽市長が方向転換をして、関係者も含めて、えっという表現になったという新聞報道がなされる状況であった。わずかこの間10日余り。一体何があったのか理解に苦しむところである。
 そこで、以下、市長に断念理由の中で述べられた中身として答えて欲しいと思う。
 まあ昨日の質疑の中でも市長は多くの市民の声を聞いて判断したと言われたが、いつ、どこで、どういう方々の声を聞かれたのか、お尋ねする。
 また、なぜ5月19日に岡山に自ら出かけ岡電の社長と面談した上で運行協力を打診をされたのか。
 3点目、財政上の問題に掲げられた事案は、今年度の当初予算計上時にも考えられていたものばかりであるが、何か大きな財政出動課題がそれ以降出たのか。ここが重要なところだが、市民の税負担に対する理解をどこで市民に求められたのか。以上、明確に答弁を願いたい。
 また、関連して助役には、6月19日の北方町での住民総決起大会に参加された決意についてお尋ねをしたい。
 それから、大きな項目の2件目ですが、7月27日の市議会の全員協議会の中で、断念理由と同時に市民交通会議の設置と言われたが、これは何をする会議なのか、また、その構成メンバーや規模、日程等について見解を求めたい。
 3つ目、本年6月に第一次草案として岐阜市総合交通政策が交通総合政策室より出された。その中には路面電車活用も明確に記載されているが、この交通政策の取り扱いと正式な成案発表までの概略の日程についてお尋ねをしたい。
 4点目、3線廃止後の代替交通は、代替バスが当然のように論議が行われているが、関係自治体や地域住民、さらには通勤、通学等の利用者の声を聞く機会を設けなくていいのか、お尋ねをしたい。
 また、代替バスを本当に走らせる場合、来年4月1日の運行にはスケジュール的にも手続的にもかなりハードだと思うが、今後の予定をお尋ねしたい。

<市長答弁5>
 どういう経緯をたどって(存続断念という)決断になったのだということについての質問について、名鉄3線の存続問題は岡山電気軌道株式会社の協力によって、上下分離方式での収支予測が出た。毎年のランニングコストとして約4億円から6億円の公的負担が必要であり、名鉄からの資産購入費用として約20億円と、軌道改良、安全島の設置など基盤整備費としてその他の経費を計上いたしまして、10年間で公的負担額が約84億円、そのうち岐阜市の分として約60億円の負担が必要であるという試算が出ている。一方、路面電車の利用者数の推移は、昭和37年をピークに減り続けており、平成15年度は560万人の利用者と、減少に歯どめがかからない状況が続いている。昨年度実施した交通社会実験、あるいは「乗って残そう運動」、また、沿線住民からの署名簿の提出などが行われたが、それらの活動が具体的な利用に結びついておらず、利用者増加の兆しが見られないことから、日常生活における路面電車の位置づけが十分強くないのではないかと考えている。
 また、市民全体の自動車の利用は、国土交通省などが取りまとめました第4回の中京都市圏パーソントリップ調査によれば、ここ10年間に自家用自動車の交通手段分担率が約10%上昇しまして、その自家用車の割合は約60%に達している。今なお車社会の進展が続いている状況である。
 存続に向けてはこのような自動車利用が進んでいる実態や路面電車利用者の減少傾向が続いていること、さらには本市の財政上の問題、市民の税負担の問題などを総合的に勘案して、市民の理解が得られていないのではないかと判断をしたところである。
 市民の多くの声をどう聞いたのかという質問について、さまざまな会合において、さまざまな方々から、もちろん賛成も含めて、賛成、反対のさまざまな御意見をお聞きする中で、私なりの判断をしたものである。
 先ほどの質問の中で、この間に特に新しい財政出動が出てきたのかという質問でありますが、これはもともとあった財政出動というものを前提にして考えたわけである。
 岡山電気軌道に行った経緯についての質問について、3月議会が終わってから、岡山電気軌道から具体的な提案が出て、まあ最終的な完璧な提案ではなかったわけであるが、岡山電気軌道がどういう背景で、どの程度の意向でその提案をしているのかという真意を確認したいという趣旨で行ったものであって、そのとき大変強い岐阜市での事業展開についての意思表明があった。それを踏まえて具体的な事業計画を早急に策定するように事務局に指示をしたものである。
 それから、代替交通を時間的に大変時間がない中で、それに対して住民の声を聞く場が必要ではないか、あるいは具体的なスケジュールはどうなっているのかという質問について、代替バスは来年の4月1日の運行開始がもう絶対的な条件であるので、それに向けて万全を期す必要がある。そのため年内には路線の形態、運行料金など基本方針をまとめる必要があると考えている。また、年明けにはバス運行会社からの路線運行の許可申請をしていただかなければいけないと思っており、4月1日の運行開始に向けて万全を期していく必要があるということで、いろいろと努力をしていきたいと思っている。
 また、沿線住民への説明については、沿線市町対策協議会で検討した代替案のたたき台ができた段階で、各市町ごとに地域に入り、バス停の位置など、身近な事項については地域の意見を聞き、地域の特性、利用者のニーズに合致した代替交通の確保を図りたいと考えている。
 市民交通会議について、本市では高齢化社会の進展あるいは環境問題といった社会状況に対応するために、過度に車に依存した交通体系から公共交通が便利で使いやすい交通体系、また、歩行者や自転車が安全に運行できる、そんなまちをつくっていこうということで、その総合交通政策を策定する予定である。そのためにも市民に積極的に参加していただき、また、公共交通等に対する認識なども深めていただくという趣旨で、この市民交通会議を開催しようと考えているわけである。この交通政策の策定方法は、従来の行政主導ではなくて、市民との協働で策定をしようという計画であり、学識経験者、経済界、自治会などの利用者代表、物流・交通事業の関係者など、さらには、公募による市民も含めて約30人程度の委員で構成しようと思っている。広く市民の意見を計画策定に反映をしていきたいと思っている。第1回の開催は10月の早い時期に開催したいと考えている。
 また、ほかにコミセン単位で地域住民と話し合う1日市民交通会議(仮称)というものを開催して、それぞれの地域固有の交通問題なども集約し、地域に根差した交通政策をつくっていきたいと考えている。
 本年6月に発表した総合交通政策第一次草案の位置づけに関する質問について、この総合交通政策第一次草案は、本年度策定する総合交通政策の基本的な方向を示すものとして、本年の6月に策定したものである。岐阜市としては路面電車の存続断念を表明したところであるが、総合交通政策の理念であります高齢化社会の進展、環境問題といった社会状況に対応するため、過度に車に依存した交通体系から、公共交通が便利で使いやすく、さらには、歩行者、自転車が安全に通行できることができ、車と歩行者、電車、公共交通が適切に組み合わされた交通体系の転換を目指すという方向性は変わるものではない。基幹公共交通軸をしっかりとつくって、バス路線再編計画を基本として、交通の空白地域の解消、市民ニーズに対応した路線バス、支線バス、さらにはコミュニティーバス計画などの具体的な施策検討について、市民交通会議などによって広く市民の意見を聞き、それを反映させながら進めたいと思っている。
 路面電車の廃止の後、基幹公共交通軸については短期的にはバス中心で進めることになるが、中・長期的な交通軸については、定時性、信頼性のある新しい交通機関の検討も必要ではないかと思っている。
 いずれにしても、平成16年度中の成案策定を目標としているが、その検討過程では市民の皆様にその状況について公表をし、持続性、実現性のある計画をつくっていきたいと考えている。

<岐阜市答弁>
 6月19日の北方町での総決起大会における決意について、この総決起大会には沿線市町対策協議会の会長として参加し、地元の自治会の代表者の方から、まあマイレール宣言という形で決意表明を受けたという形であって、こちらから積極的に何らかの決意表明をしたというわけではない。しかし、この沿線市町対策協議会というのは、まさに存続についての検討を進めているというものであるので、沿線住民と一緒になって、できることなら存続したいという気持ちで臨んだところである。

<質問6>
 岐阜市の公共交通政策について、疑惑の10日間、この10日間にそれ以前から多分心は揺れてたと思うが、市長が声なき声で実は判断をした。何故かというと3月や6月の議会の本会議、ここの議場にみえる議員のどなたも廃止すべきだという話は一言もなかった。
 気になる新聞が実はある。ちょっとこの事実確認をしたいと思う。7月22日の朝日新聞、「揺れた判断、存続に壁」ということで、「岐阜市財政難も影響」ということでずっと記事が書いてある。それで6月30日の周辺自治体による会合で、細江市長は「路面電車は老人、学生の福祉電車。それならバスでいい」とこれまでの存続の方針を全面転換し、集まった首長らを驚かせた、と書いてある。
 いろんな関係市町の関係者からそのように近いニュアンスを聞いたが、新聞にこうやって載ると、えっていうふうに思う。この事実確認について答弁を願いたい。

<市長答弁6>
 新聞報道の記事を今初めて読んだが、こういう趣旨の発言をした覚えは全くない。
 多分、最近になって電車を利用している人は通学生あるいは老人の方が多いと。だから、これを代替バスに変更するんであれば、そういう人々に配慮した例えば、前から議論になっております大学生の人の電車と(代替バスの)通勤の定期代が全然格差があるといった点に配慮する必要があるという趣旨で話したのだろうと思う。ここに書いてあるような趣旨で話をした覚えは全くない。

<質問7>
 岐阜市は清流長良川が流れ、鵜飼があり、岐阜城や金華山もあり、自然に恵まれた都市である。このような環境に恵まれた岐阜市だからこそ、この環境と自然を守るために環境都市宣言をされたと思うが、市長は路面電車の廃止を決断した。路面電車は環境に優しい乗り物である。路面電車がなくなることにより、自動車の市内への乗り入れが増加すると考えられ、騒音や大気汚染の悪化も懸念される。また、善商による産業廃棄物不法投棄問題も発生し、岐阜市の環境都市としてのイメージが傷ついた。今後、環境都市としてどのような環境保護行政を行われるのか、市長にお尋ねする。

<市長答弁7>
 清流長良川と緑豊かな金華山に代表される本市の環境を保全するために、地下水保全条例、自然環境の保全に関する条例に続き、今後これらを包括する環境基本条例の制定を予定している。さらに、長良川流域24市町村に呼びかけて、水環境の保全、水資源の涵養、水辺景観の保全事業を推進しようとしておるところでもある。これらを初め種々の施策を通じて環境都市を目指していく。
 路面電車の代替交通による公害問題については、過度に車に依存した体系から、公共交通が便利で使いやすく、歩行者や自転車が安全に通行することができ車と適切に組み合わされた交通体系への転換を図っていく。
 また、産業廃棄物不法投棄問題は全国的に潜在する大きな問題である。この問題について、いわゆる岐阜モデルと言われるような解決方法、再発防止策を早急に見出し、実施をすることで一たん傷のついたイメージを回復できるものと考えている。

<質問8>
 路面電車の代替交通という問題について、例えば、美濃町線が廃止されると上芥見とか白金から乗っている利用者について、非常にバスのある国道までに距離がある。こういった点については、ひとつ早急に足を確保していただきたい。
 それから、廃止するという市長は決断したわけであるが、例えば、新岐阜から競輪場までぐらいの田神線ですとか、ああいう一部の路線を観光路線として残して、やはり土・日、祭日等に利用するというような利用方法もまあ考えられないかどうか、という2点についてお尋ねする。

<市長答弁8>
 路面電車については、来年の3月末で廃止されることになっており、利用者の利便性確保のためにも代替交通を確保する必要があると思っている。その運行に当たっては、それぞれの地域の特性、あるいは利用者のニーズなどに合致をした対応をしていくべきだと思っている。
 特に指摘のあった美濃町線については、運行本数の増便、さらには始発、終発の時間の調整といった現行バスの充実を図ることが必要である。
 また、芥見の大退区域という交通空白区域がある。この地域内を巡回するような新しい新規のバスルートの設定なども必要ではないかと思っている。
 路面電車の観光資源としての活用について、路面電車を観光用として活用した例として松山市の伊予鉄道という、あそこで「坊ちゃん列車」というのを走らせているようであるが、観光用として運行することについてアイデアとしてはすばらしいと思うが、現状については、やや厳しい状況にあるのかなあと考えている。

<第6回定例会のまとめ>
 結局、廃止を決断した理由について納得の得られる説明はなかった。
 存続断念の理由としては、市長が発言したとされる「路面電車は老人、学生の福祉電車。それならバスでいい」という言葉にヒントがあると思うが、本人が否定している以上、それも推測でしかない。
 また、市長答弁の中には「定時性、信頼性のある新しい交通機関の検討も必要」という言葉はあるが、路面電車の存続を断念させるに至った財政面の状況から見て、そのような交通機関を整備する余力があるとは思えない。結局、中短期的に中心的な役割を担う岐阜バスが、ずっと公共交通機関の主役を務めることになるのではないだろうか。
 
 モヤモヤとした物を抱えつつ、なし崩し的に代替交通機関の議論へ移行していった感が強い。
 代替交通機関の議論についても「過度に車に依存した体系から、公共交通が便利で使いやすく、歩行者や自転車が安全に通行することができ車と適切に組み合わされた交通体系への転換を図っていく」としておきながら、具体的にどうするかについては、これから検討すると後手後手に回っている。
 結局、最後まで岐阜市は抽象論を押し通してしまった。その結果、言葉とは裏腹に車により過度に依存した交通体系を作り上げることになってしまうのではないだろうか。

最新の画像もっと見る