Simplex's Memo

鉄道と本の話題を中心に、気の向くまま綴ります。

JR西日本・ATS-P設定ミス、そして「安全研究所」を設置。

2005-11-04 06:47:20 | 鉄道(JR)
最初にこの報に接した時、「相変わらずか」と思ってしまった。

「JR西日本 新型ATSの96カ所で設定ミス」(毎日新聞、11/2)
「JR西 新型ATSで設定ミス 30カ所ブレーキ作動せず」(産経新聞、11/2)

等々、いちいち挙げていけばキリがない。
要は京阪神地区の主要路線のカーブ等374カ所に設置したATS-Pのうち、8路線96カ所で設定ミスが見つかり、特に30カ所で制限速度を超えてもブレーキが作動しない設定になっていたと発表したものだが、中には設置以来15年間もミスに気づかない箇所もあったという。

これだけならば、フォローがしっかりなされていれば問題はなかったが、発覚した経緯と対応が極めて拙かった。
発覚した経緯を整理すると、9月初めに脱線事故を調査している国交省航空・鉄道事故調査委員会に東西線の新型ATSのデータ提出を求められ、社内調査した結果、ミスが判明。
これを受けて調査した結果、2287カ所の設置箇所の内、30カ所については設定速度が計画速度を上回り、仮に制限速度を上回ってもブレーキが動作しない状態になっていた。逆に66カ所では制限速度を低くするミスがあり、この内の22カ所では脱線事故の不通区間で設置した際に設定ミスに気づいたが、「安全上の問題はない」として放置していた。
設定ミスの原因は社内の「縦割り意識」にあったとしか言い様がなく、誤ったデータを検証する体制が整っていなかった事による。

これらの設定ミスについて、JR西日本は9月上旬に気づき、十月上旬に国土交通省へ報告、中旬には改修を終えたが、一般には事実関係を公表しなかった。

結局、尼崎脱線衝突事故の教訓から何を得たのだろうか。
当時も情報管理の甘さ、情報公開のいい加減さを散々指摘されたにも関わらず、教訓は生かされていなかったとしか言い様がない。

また、JR西日本は尼崎脱線衝突事故の背景原因を科学的に分析し、対策を立案するための「安全研究所(仮称)」を設置する事を発表した。

「福知山線事故教訓に、JR西日本に『安全研』」(読売新聞、11/3)

この研究所で事故を引き起こす人的ミスや組織の安全管理を専門に研究する組織として設置する。規模は外部からの専門家を含めて30人程度。
また、、睡眠時無呼吸症候群(SAS)をチェックするため、全運転士5500人に検査を義務付け、3年ごとに適性診断を行うとしているが、まだ全運転士に対するSAS検査が浸透していなかった事に驚く。

何か全てにおいて「後手後手」という印象が拭えないのは自分だけだろうか。
特にATS-Pの設定ミスに至っては事故以前に設置された分についても放置を決め込み、指摘があって秘密裏に修正していた所を見ると、官僚的な体質は変わっていない。

そして、今回の事故に遭遇した方からの証言に対し、安全研究所で科学的な分析は行われるのだろうか。
実際に1両目に乗車して事故に遭遇された方の手記を読むとその思いは強くなる。
「2005年4月25日 福知山線5418M、1両目の「真実」 」

詳細はリンク先を見て頂くとして、車内から見た事故直前の状況が克明に描かれている。運転士の運転操作が明らかにおかしかった点等、その内容は大変貴重な物だと思う。
人的ミスに関する証言を社内だけに求めるのではなく、外部からも広く収集・分析し、どのように活用していくのかが「安全研究所」に求められていく事になるのではないだろうか。

今回の事故の原因について、ボルスタレス台車を危険とする川島令三氏の著書に対し、「鉄道ジャーナル」誌上で反論が出されていた。
しかし、今の段階で出された一つの仮説まで否定する必要はないと思うのは自分だけだろうか。
この他にも事故調査委員会の中間報告では防護無線が事実上役に立たなかった事も指摘されており、報道を見る限り、事故の全体像はまだ見えていない。
にも関わらず、事故の全貌は解明されぬまま、その記憶は薄らいでいく。

果たして、これで良いのだろうかと思っていた矢先、日経BP社から「重大事故の舞台裏」という本が出ている事を知る。
もちろん、今回の事故に関する分析も収録されているので、「鉄道」から離れた専門家はどう分析しているか知りたいと思い、注文してみた。
各種の重大事故に関する詳細な技術的原因や対策・教訓の分析に定評がある本と聞いているので、どのように今回の事故を読み解いているか関心を持ちつつ、到着を待っている。

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