注;ネタはバレます
BBC2がこのドラマを放送したのは私のイギリス旅行中でした。スケジュール帳には8/17の夜にしっかりと書き込まれているのですが、その日はコツウォルズの友人宅に滞在していて、日中村を案内してもらった後にお茶の間でTVドラマも見せろとはどうかと遠慮しました。しかし、それが正解だったのです。その家庭には13歳の男の子がいて、その子の前で見るわけにはいかない文字通りスキャンダラスなドラマでした~!
まず、スケジュール帳に書き込んだ動機はショーン・エヴァンズがコスチューム・ドラマに出ている!ということでした。そしてヒロインはかわいいナタリー・ドーマー♡・・・もうひとり若い男子も予告に出ていて、あれ?ああ、トライアングルなのね、と、見る前の予備知識はそんなもの。鍵穴の向こうの青い目は、70年代のイギリス映画にもなんだか見たような記憶があるけど思い出せないなあ・・・
という状態で本編を見ました。
月曜日の夜9時からこれを地上波で・・・やはり小学生以下はとっくにベッドタイムな前提のイギリスです。うちの13歳の娘がいる時にも見られない大人のシーンが、撮り方はとても奇麗なのですが、大人のシーンには変わりがありません。
だってストーリーは、愛し合って結婚した夫婦の夫リチャード(ショーン)が、妻セイモア(ナタリー)が他の男ジョージ(Aneurin Barnard)とセックスするのを見て満足を得る性的嗜好で、夫を愛する従順な妻が彼のために尽くしているうち出会った男と本気になって、夫はその男に所有物侵害を訴え賠償金を求めて訴訟するというものなんですから。
で、話にはけっこうぶっ飛びましたが、実存したイギリス史上有名なスキャンダルとのことです。妻は夫の法的所有物だった、ってところと、夫の希望の上のトライアングル(他にも20人以上いたとのことで三角どころじゃないんですけど^^;)ってところが現在の常識人から見たらぶっ飛びポイントです。
ところが!私、このドラマとても気に入ってしまったのです!!
なんていやらしいのか私?!
だって、衣装とセットがもう高級ファッション誌のような美しさです。
ただそのままのロココではなく、ショーンの部屋には色がなく真っ白なんです。モダンな真っ白ではなく、装飾的なロココで白。
ロココの時代ですから、上流の衣装は基本パステルカラーです。ショーンがサテン地にお花の刺繍が入ったベストや、ゴールドのブレードのジャケットを着て、キレイな脚に白いタイツ履いて、ウエーブの髪を後で黒サテンのリボンで結んでいて、華やかなんです。ナタリーも例の大きなポンパドゥールに縦ロールの髪に、パステルかヌードカラーかモノトーンのドレス。そして、現存する有名なWorsley夫人の肖像画と同じ、赤い軍服姿で3人が登場する時の華やかさといったら・・・!!たぶん、有名な赤い衣装を引き立てるため、他には赤を使ってなかったと思います。
そして、この見た目は麗しい変態夫婦の、抑えた会話がツボに入りましてね・・・!世間でいうようなロマンチックな会話と仕草は結婚したばかりのころのみで、その後は、まあやっていることが普通じゃないんで、普通のカップルのような会話やスキンシップはないんですけれども、訴訟まで発展する対立が、騒がず慌てず入り乱れずに淡々と進行、そしてLady Wが、当て馬との恋も本気だったろうけど、夫をずっと愛していたのも本当だと思えるのです。
そう思えるのも、ショーンの真面目な狂気(と言ってもただの性的嗜好だから気は確か
)が上手くて良かったからだと思う。昔から、金髪碧眼の悪役って定期的に映像に現れますけど、ショーンもその素質を持っていたとは気づきませんで・・・!特に、妻とジョージの性交を鍵穴から覗いた後に幸せそうにその部屋へ入って来て、そのふたりの横にベッドにスライディングして3人で川の字になる時の満足気な表情が無邪気だからこそゾクッとしました。欲を言えば、辞表を出す相手は総理大臣という高官の威厳は、あと一息だったと思うので、ショーン、頑張れ!!
そしてナタリーも、ストーリー上では20人以上の男と関係を持って賠償金を求める価値のない女、と法的には扱われてしまいましたが、そう言われても天使のようなベビーフェイスがちっとも価値を下げない魔性の魅力があって、対当ないい勝負のスキャンダラスな夫婦でした。
久しぶりに、変なのに愛してしまうドラマに出会えました!
ピーター・グリーナウェイ映画の初期の数本や、ルパート・エヴェレットの「グルメ・アカデミー」という迷作を思い出しました。(そのへんがお好きという方、さっき見つけてしまったのですが、今なら大手動画サイトに全編上がってましたよ・・・・コソっ)
内容が内容だけに、観ておもしろかったとか気に入ったとか言いづらいドラマですよね。でも私もかなり気に入りました。
ストーリーを紹介すると変態夫婦のエロ話か夫の変態趣味で虐待される人妻よろめき話みたいでひどく陰性な印象がありますけど、実際に観てみると意外とそうでもなかったですし。
>当て馬との恋も本気だったろうけど、夫をずっと愛していたのも本当だと思えるのです。
おっしゃる通り! ショーンとナタリーの間には、時折、「結局、夫婦のことは夫婦にしか分からない」とでも言うような間合いがあって、そこが話をおもしろくしていましたと思います。
>衣装とセットがもう高級ファッション誌のような美しさです。
さすがしましまさん、漠然と「綺麗だなあ」と眺めていただけの私と違って細部までよく分かっていらっしゃる! 勉強になりました。
<<夫婦のことは夫婦にしか分からない
そうそう!夫に従順な妻なんだけれど、日本的な可哀想感は微塵もなく
お似合いのふたりでしたものね。
<<細部までよく分かっていらっしゃる!
いえいえ、赤い乗馬服を際立たせるために、他には赤を使ってないと
思い込んでいたら、お別れのラストシーンのドレスも赤でした・・・・
とにかく、こんなドラマを公共放送が低予算で作っちゃうってんですから
侮れませんよね。お知らせありがとうございました。