ノエル・カワード原作では、去年のNTLive「プレゼント・ラフター」に次いで見るチャンスが来ましたので、非常事態の中映画館に行きました。公開初日の昼で観客は各列に2名くらい、往復の電車の方が密でした。
ノエル・カワードは、007原作者のイアン・フレミングともお友達で、上流階級ではないものの、俳優/作家/脚本家/演出家/作詞・作曲/映画監督と多彩で中流階級の上として王室やチャーチルと交友があったりのちにはサーの称号も受け、税金対策でイギリスから脱出しましたので、成功者で享楽主義(作風も)なあたりは「プレゼント・ラフター」の主人公ゲイリー=人気俳優と、本作の主人公チャールズ=作家/脚本家に反映されておりますね!
さてこちらの映画は、時代が1930年という古き良き時代(?)でセリフが今ではあまり聞かない丁寧な言葉を夫婦で喋っているのが新鮮でした。
丘の上のお屋敷に住むくらいの富裕層ではあることも要因でしょう。アールデコのモダンな家には金箔の日本画が飾られていて、かわいい制服を着たメイドがいて、朝食は正式な食器を使って本宅のキッチンからチャールズの書斎である離れに運ぶ暮らしを見るだけで楽しめます。チャールズの書斎はデコではない素朴な家で、書けなくて煮詰まってるしおそらくメイドも入れないので物がいたるところ出しっぱなしでゴチャゴチャの我が家そっくり・・・
丘の上で現世から離れてる感の家でもロンドンからそう遠くはないようで、劇場に行ったり、サボイホテルに行ったりできる生活、理想〜ロンドンに近く緑の多いケントかな、と思ったらお隣のサリーでした。ちなみに劇場はリッチモンドシアターでした。立派なインテリアでソーホーの古い劇場かと思いました。
その劇場に見に行ったのが、ジュディ・デンチ演じる霊媒師のマダム。さんざん劇中ではインチキ扱いされます。本人はいつだって真剣に霊界との交流を勉強していますし、勉強の成果とは別の無意識で幽霊を呼び出してるのに。これはデンチ様じゃなかったら相当気の毒な高齢女性になったのでは。。。
あ、彼女の家はアールデコとは無縁でしたが、使い古したシノワズリ(中国趣味)のティーセットがあって、時代を感じました。でも霊界と交信するのにインド人の司会者を使ったり本人の衣装もアラブ風のデザイン=エスニック趣味というのは、なぜかこう、西洋人の女性がちょっと個性的な装いをするとこういう感じになるのは何なんでしょう。
ところで、邦題には「夫をシェアしたくはありません!」という長いサブタイトルが付いていて、確かに劇中にもこのセリフが出てきます。女性ふたりがひとりの男性をめぐってトライアングルバトルを繰り広げるコメディではあります。
最初は騎手で乗馬服のかっこいい元妻が本命で、現妻の映画プロデユーサーの娘はいわゆる仕事のコネを利用した結婚かな、と思って見てたのですが、ストーリーが進むにつれ現妻も父親の力をそれほど利用するわけでもなく、夫の成功を応援するけっこう気立てのいい人じゃん・・・となってきて、
死んだ妻なのでどっちかが浮気というわけでもなく、これは、実は妻達に頼ってる男も問題なわけだ・・・となってゆくのです。
だから、邦題はただの観客を引き込む術というか、どちみち都心でも単館ロードショーなのにちょっとそこへ来る観客を舐めてないか?と思えてしまいました。
そしてこの情けない売れっ子作家を美女がとり合わなくてはならないので、ダン・スティーヴンスでなくてはならいわけですね!こういうイケメン枠は、見かけに説得力があって存在感があり、情けない演技力もなくてはならないので、できる俳優さんも限られるでしょうねえ。他にはまったく思いつきません。