イギリスで保育士と執筆業をされている著者のことは、よくネット記事でお見かけしたものの、読んだのはこの本が初めてでした。
タイトルに「子どもたち」とあるので、私の、今となっては古くなったイギリスの中でもよく知るジャンル育児の話ということで興味を持ったからです。
とはいえ、私がロンドンで育児生活をしていたのは2001-2007年で、著者が保育士となったのが2008年とのことで、見事に時期は私がいなくなってからのこと。
それを知り、逆にあれからイギリスの子供サポートはどうなったのかな?という視点でも読みました。
みかこさんの働いた託児所は、自ら「底辺」と呼んでいる通り貧困地域にあったとのことで、細かく見れば私が住んでいた4箇所-
リッチモンドの近くのMortlake
ヴィクトリア近くのPage Street
キングスクロス近くのGrays Inn RoadとSage Way
とも大なり小なりそれぞれ違うとはいえ、私が子供周りで出会った家族たちと共通する人種が出てきて、「ああ、そうだった、そういうの、いたいた」と頷きながらページをめくりました。
本書に出てくる託児所は、無職の母親(ほぼシングルマザー)がアルコールやドラッグ依存から更正するため政府の助成金で運営されていたとのこと。
私がロンドンで見たのは、当然の事ながらほとんどが「託児所」ではなく(母親である私も同席していないと目撃できませんからね)、親子の集まる育児サポート施設。それとナーサリーと呼ばれる日本の保育園と幼稚園が合体したような未就学児のための教育機関ですが、
ナーサリーに入れる前によく利用していた施設では、親が依存症とまではいかないものの、本書に出てくる「若い白人労働者階級の親」も「インテリ系のちょっと変わったイギリス人」も「外国人」もいました。
ただしリッチモンド近くに住んでいた時は、娘がまだ0歳児だったので当然他の子供と遊ぶ必要もなく、地域の保健センターのお知らせで同じ頃に生まれた乳児の親が子供れで数回集まった程度でしたが、そこではみごとにほぼ白人のイギリス人ばかりでした。唯一インド人のお母さんがいたらしいけど私は会ったこともなくその地域から引っ越してしまったのでした。今思うとロンドンでも珍しい保守的な地域で、やさぐれた人は見たこともなく、私たち一家が一番みすぼらしい家に住んでいました。
そして引っ越し先のヴィクトリア付近で、「労働者階級のイギリス人」や「貧乏な外国人(発展途上国出身)」「ヨーロッパ系外国人」の家族や保育者やナニーと呼ばれる個人で子供を預かっている人などに出会いました。
出会うのは、教会の一部を使用して運営されている児童館のような施設で、1回につき1.5ポンドくらいの使用料を支払うペアレンツ・グループというところ。その地域には3箇所あって、ウエストミンスター・アビーのお向かいと、ウエストミンスター大聖堂の隣にあった方が教会も大きく場所柄華やかでした。
イギリス人の運営者(おそらくヴォランティア)が子供を遊ばせる部屋の外に(と言っても教会の中ではある)大人のためにマッサージ師を呼んでくれて無料で育児疲れを癒すことができましたし、心理学などのコースを親が受けている間に子供を見ていてくれました。
そしてそこで気の合う親子と出会うと、別のリトミックやダンス教室などに誘い合って行ったり、家に呼んでもらったりと、私のように親戚も友人もいない親でもコミュニティで孤立せずに育児ができたものです。
それが教会系ヴォランティアだけだったのか、政府のお金が入っていたのかは当時は考えていませんでした。
本書のような「底辺」にもっと近づいたのが、キングスクロス付近に引っ越してからです。
しかし「底辺」ながら、そこは「緊縮」前のイギリス、貧富の差はあっても、そこをどうにかしようというトニー・ブレア時代の教育改革の一環であるSURE STARTという「子供の貧困をなくす」目的のプロジェクトが始まった時期でした。(1999年〜)
そこでの育児コミュニティは教会から離れていて、それが政府の助成金で賄われていた証拠でもあり、またSURE STARTのロゴが子供センターに派手に貼られていました。それらの施設に子供を連れて行くと無料で遊具やお絵かきセットなどで遊んだり、音楽のセッションに参加でき、子供や親のためのヨガやピラティス、バレエ、体操、お料理、ハーブ学などのコースに無料か格安で参加できました。またイベントも色々組まれていて、参加は自由、料金は格段に個人で行くよりも安く、バス旅行でサファリ、ビーチ、イチゴ狩り、ロイヤルバレエ鑑賞、農場体験、乗馬体験などに連れて行ってもらえたのです。その時はイギリスはなんていい国だ、と思いましたが、
イギリス経済が停滞し、国から地方への助成金がカットされそのSURE STARTの多くが2011年に閉鎖されたそうです。その後も地方政府も予算をカットし、反対運動もむなしく2017年には残りも閉鎖。
つまり私は大変恵まれた時期に恩恵に預かったのでした。
それでも本書に「ウンウン」と頷いていたのは、イギリス人だけでなく、英語が完璧でなくても外国人の保育士が大勢活躍していて、センター責任者も外国人だったこととか、(日本が外国人に求める日本語レベルの厳しさ、あれは何?)
私を含む外国人と、リベラルなインテリ系やヒッピー系のイギリス人は仲良くなるのだけど、コックニーで喋る労働者階級の若いイギリス人は孤立していたこと。
でもあの時代はおそらくその白人の貧乏人にも手当が厚かったので彼らもそれはそれで幅を利かせていたし、本書に出てくるほど荒んだ家庭は、その昔ジャンキーで悪名高かったキングスクロスでもお目にかかったことはありませんでした。
でもかえってシングルマザーでもなく、だからと言って親や親戚が近くにいるわけでもない低所得層のうちは税金だけ取られてなんの手当ももらえず、家賃補助もなく、1番馬鹿正直な割に合わない生活と思えました。
ですので、政府が働かない人への助成金をカットと聞いた時には、正直胸がすく思いがしたのですが、
本書に出てくるような、更正が必要な人たちを見捨てるのは趣旨が違います。
けど、健康でも無期限に失業手当を受け取る人、
持ち家まであるのに低所得者用の住宅を政府からタダ同然で借りてそれを不動産として収入を得る人、
そういうのだけを取り締まる方法はないのか、と思っていましたがどうなったのでしょう。
それはわからないのですが、現在富む者はパワーもある者、悲しいかなイギリスも理想に燃える国家づくりよりも、富の死守に回ったらしく、
時代は共産主義も社会主義も失敗に終わり、どんどん欠陥を抱えたままの資本主義に逆行していてヴィクトリア時代のような貧民層が出現して、そのうち絶対王政のような政府ができるんでは・・・と思えてきたので
前から気になっていた「チャヴ」という本が、貧富の拡大した現在を読み解くというのでそちらもポチリしてしまいました。