ここの喫茶店は居心地がいい。内装に木が多く使われている。私はホットコーヒーを注文して麻衣さんを待った。少しぼんやりしているうちに、麻衣さんはやってきた。
「待たせたね」
「いえ、そんなに」
「さおりちゃん、怒ってる?」
「いえ、怒ってはいません。驚きましたけど」
「ごめんね、びっくりさせちゃって」
「いえ、でも、なんでですか?」
「引退?会見で話したとおり、去年の暮れに結婚して、将棋と家庭の両立が難しくなったからかな」
「でも、結婚してる女流棋士もたくさんいますよね」
「うん。ただ私はトップクラスを維持できないと思ったから」
麻衣さんはホットコーヒーを啜った。
「麻衣さんなら維持できると思いますけど」
「私は難しいと思った。今後、子供も出来るかもしれないし、その上、さおりちゃんや菜緒ちゃんのような、私よりずっと若くて、強い棋士についていくには、若い人の2倍、3倍努力しなくちゃ無理だよ。コンピューターソフトが出てきて、より将棋が複雑になったからね。その自信がなかった」
麻衣さんにしては強い口調だった。この人は、本当はプライドの高い、そして将棋が大好きな人なんだ。
「そうですか。でも、どうすればいいんですかね?私もいずれ結婚するかもしれないし、その時、どうしたらいいんですかね?」
麻衣さんは少し考え込み、やがて、口を開いた。
「うん、そうだなあ。ただ、現役を続けるだけなら出来るよ。でも、さおりちゃんも相当、負けず嫌いみたいだから、その時になったら悩むかもしれないね。これからは女流棋士が、結婚や出産後も、モチベーションを落とさない環境を作れたらって思ってる」
「本当はもっと将棋を教えて欲しかったです」
「私より強い人にどうやって教えればいいの?本当に強くなったね、あの小さかったさおりちゃんが」
麻衣さんは感慨深げに笑った。
「待たせたね」
「いえ、そんなに」
「さおりちゃん、怒ってる?」
「いえ、怒ってはいません。驚きましたけど」
「ごめんね、びっくりさせちゃって」
「いえ、でも、なんでですか?」
「引退?会見で話したとおり、去年の暮れに結婚して、将棋と家庭の両立が難しくなったからかな」
「でも、結婚してる女流棋士もたくさんいますよね」
「うん。ただ私はトップクラスを維持できないと思ったから」
麻衣さんはホットコーヒーを啜った。
「麻衣さんなら維持できると思いますけど」
「私は難しいと思った。今後、子供も出来るかもしれないし、その上、さおりちゃんや菜緒ちゃんのような、私よりずっと若くて、強い棋士についていくには、若い人の2倍、3倍努力しなくちゃ無理だよ。コンピューターソフトが出てきて、より将棋が複雑になったからね。その自信がなかった」
麻衣さんにしては強い口調だった。この人は、本当はプライドの高い、そして将棋が大好きな人なんだ。
「そうですか。でも、どうすればいいんですかね?私もいずれ結婚するかもしれないし、その時、どうしたらいいんですかね?」
麻衣さんは少し考え込み、やがて、口を開いた。
「うん、そうだなあ。ただ、現役を続けるだけなら出来るよ。でも、さおりちゃんも相当、負けず嫌いみたいだから、その時になったら悩むかもしれないね。これからは女流棋士が、結婚や出産後も、モチベーションを落とさない環境を作れたらって思ってる」
「本当はもっと将棋を教えて欲しかったです」
「私より強い人にどうやって教えればいいの?本当に強くなったね、あの小さかったさおりちゃんが」
麻衣さんは感慨深げに笑った。
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