「さあさあ、ここ座って」
白川さんは有紗のために空けておいた席を引いた。
「じゃあ、失礼します」
「何年ぶりかねえ。ここの店に来たのは?」
「高校卒業した直後は来てたかな。どっちにしても10年以上前なのは間違いないですね」
「お父さんが、有紗ちゃん、有紗ちゃんうるさくて」
亜衣がぶっきらぼうに言うと、皆、笑った。
山野氏は二言三言、小さな声で有紗と言葉を交わした後、「順調、順調」と僕の肩を軽く叩き、一足先に帰っていった。
「山野さんと何を話してたの?」
僕は有紗に聞いた。
「坂木君の本のことだよ」
「何だって?」
「言っていいのかなあ」
「なんか、ネガティブな内容?」
「いや、うん。増刷、決まりそうだって」
「へえ。でも山野さん、少し酔ってたからな」
僕は、出来るだけぬか喜びは避けたかった。
「凄いじゃないか、誠君。俺も立派な息子を持ったもんだ」
白川さんは、有紗に会えて、とにかく上機嫌である。彼にとっては、それがすべてなのだ。有紗が僕に耳打ちする。
「女の子の名前なんだっけ?」
「うん、ユカ。結ぶに香ると書いて結香」
「結香ちゃん、おばさんのとこに来てよ」
有紗が母親のそばから離れようとしない長女を手招きした。亜衣が「あのお姉さんが呼んでるよ」。結香はそれでも母親の上着の裾を話そうとしないので、亜衣が有紗のもとへ行き、そのまま、娘もついていった。
「こんばんは」
有紗は優しく、話しかけた。
「こんばんは」
娘も何とか言葉を発した。
「こっち来なよ」
有紗が笑顔で手を広げる。亜衣が娘の背中を軽く押し、結香は有紗の懐へ飛び込んだ。有紗は「うわ、可愛い」と端正な顔をさらに崩し、3歳の娘を抱き上げた。
白川さんは有紗のために空けておいた席を引いた。
「じゃあ、失礼します」
「何年ぶりかねえ。ここの店に来たのは?」
「高校卒業した直後は来てたかな。どっちにしても10年以上前なのは間違いないですね」
「お父さんが、有紗ちゃん、有紗ちゃんうるさくて」
亜衣がぶっきらぼうに言うと、皆、笑った。
山野氏は二言三言、小さな声で有紗と言葉を交わした後、「順調、順調」と僕の肩を軽く叩き、一足先に帰っていった。
「山野さんと何を話してたの?」
僕は有紗に聞いた。
「坂木君の本のことだよ」
「何だって?」
「言っていいのかなあ」
「なんか、ネガティブな内容?」
「いや、うん。増刷、決まりそうだって」
「へえ。でも山野さん、少し酔ってたからな」
僕は、出来るだけぬか喜びは避けたかった。
「凄いじゃないか、誠君。俺も立派な息子を持ったもんだ」
白川さんは、有紗に会えて、とにかく上機嫌である。彼にとっては、それがすべてなのだ。有紗が僕に耳打ちする。
「女の子の名前なんだっけ?」
「うん、ユカ。結ぶに香ると書いて結香」
「結香ちゃん、おばさんのとこに来てよ」
有紗が母親のそばから離れようとしない長女を手招きした。亜衣が「あのお姉さんが呼んでるよ」。結香はそれでも母親の上着の裾を話そうとしないので、亜衣が有紗のもとへ行き、そのまま、娘もついていった。
「こんばんは」
有紗は優しく、話しかけた。
「こんばんは」
娘も何とか言葉を発した。
「こっち来なよ」
有紗が笑顔で手を広げる。亜衣が娘の背中を軽く押し、結香は有紗の懐へ飛び込んだ。有紗は「うわ、可愛い」と端正な顔をさらに崩し、3歳の娘を抱き上げた。
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