K病院の3階の病室に斜陽が差し込んでいる。僕が藤沢を見舞う時は大概、彼は眠っているのだが、この日は起きていて、僕の姿を見るなり、声を発して、笑っている。
「孝志に見せたいものがあるんだ」
僕はスマートフォンを取り出す。
「懐かしい場所が写ってるよ」
彼の枕元に立ち、写真を見せる。
「えっ、なになに?」
有紗も覗き込んでくる。スマホの中に白川さんの喫茶店。外観から店内、カウンター、コーヒー、パスタ、ケーキ、そして白川さん、亜衣、子供たち。僕が写真をめくる度に、藤沢は楽しそうに声を発する。
「分かっているのかなあ?」
僕は有紗に尋ねる。
「どうかなあ。もしかしたら、おぼろげにでも、記憶が残っているのかもしれないね」
「そうか。でも、好評だったから、また何か、撮ってくるよ」
「うん。孝志さん、本当に嬉しそう」
狭い空間に和やかな空気が漂っていた。僕は次の行動に移ろうとしていたが、少し躊躇していた。わずかな沈黙があり、それを破ったのは有紗だった。
「もう少ししたら、この病院出なきゃ行けなくなった」
「えっ」
「そろそろかなとは思ってたんだけどね」
「病院に移るの?まさか退院して自宅に戻れって?」
「介護施設になると思う。この辺りからだと、少なくても2時間はかかる場所になりそう」
「いや、それはどうなんだろう?矢野だって頻繁に行けなくなるし、自分もほとんど見舞えなくなる。見知らぬ場所や人に、孝志は順応できるのかな?仕方ないのかもしれないけど、環境的に良くないような気がするね」
「うん。私もそう思うけど、自宅は難しいし、これしか選択肢がないのかなって思ってる」
僕はもはや返す言葉が見当たらなかった。いつのまにか夕陽は沈みつつあり、冷徹な光の存在感が増していた。
「孝志に見せたいものがあるんだ」
僕はスマートフォンを取り出す。
「懐かしい場所が写ってるよ」
彼の枕元に立ち、写真を見せる。
「えっ、なになに?」
有紗も覗き込んでくる。スマホの中に白川さんの喫茶店。外観から店内、カウンター、コーヒー、パスタ、ケーキ、そして白川さん、亜衣、子供たち。僕が写真をめくる度に、藤沢は楽しそうに声を発する。
「分かっているのかなあ?」
僕は有紗に尋ねる。
「どうかなあ。もしかしたら、おぼろげにでも、記憶が残っているのかもしれないね」
「そうか。でも、好評だったから、また何か、撮ってくるよ」
「うん。孝志さん、本当に嬉しそう」
狭い空間に和やかな空気が漂っていた。僕は次の行動に移ろうとしていたが、少し躊躇していた。わずかな沈黙があり、それを破ったのは有紗だった。
「もう少ししたら、この病院出なきゃ行けなくなった」
「えっ」
「そろそろかなとは思ってたんだけどね」
「病院に移るの?まさか退院して自宅に戻れって?」
「介護施設になると思う。この辺りからだと、少なくても2時間はかかる場所になりそう」
「いや、それはどうなんだろう?矢野だって頻繁に行けなくなるし、自分もほとんど見舞えなくなる。見知らぬ場所や人に、孝志は順応できるのかな?仕方ないのかもしれないけど、環境的に良くないような気がするね」
「うん。私もそう思うけど、自宅は難しいし、これしか選択肢がないのかなって思ってる」
僕はもはや返す言葉が見当たらなかった。いつのまにか夕陽は沈みつつあり、冷徹な光の存在感が増していた。
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