平戸や長崎に置かれていたオランダ商館(平戸には1609年から1640年、長崎は出島に設置、1641年から1860年)の商館長は毎年蘭領インドシナ・バタビアのオランダ・東インド会社から着任し、彼のビッグイベントは江戸の将軍へのご挨拶であった。毎年(江戸末には4年に一度)2月に出発し、片道一ヶ月、江戸の滞在は1週間程度(?)、帰着すると交代の商館長の乗船する船が季節風に乗って7−8月頃やってくる。商館長のキャリアは様々で、商務員から出島で叩き上げた者、エリートとしてバタビアで栄達した者、一度しか商館長として勤務しなかった者、あるいは隔年で数度着任した者など様々であったという。
商館長の役割はオランダ商船の積荷を日本で売却し、日本から銀などの商品を購入して持ち帰るだけでなく、情報収集や世界事情を幕府などに伝達する役割を持っていた。それぞれの商館長は業務として日誌を付けていたが、本書に記載されているように、筆まめな者もあれば、そうでない者もあり、また、本書のトピックである江戸などの日本の都市の大火災や火山噴火などの記録についても、関心を寄せる者もそうでないものもあり、記録の濃淡は様々なものではあるが貴重な記録となっている。著者は歴代の商館長の日記から丹念に災害に関する記録を拾い上げ、日本の資料と照合し、商館長自身が体験した江戸の明暦の大火災や長崎奉行所や通詞からの伝聞情報を紹介している。
日本人の災害に対する受け入れ、例えば、笑いながら話を伝えるという様子と、そうした態度をどのように商館長が受け取ったかなど、災害の受容態度についても触れ、興味深かった。