高校受験時に初めて養子であることを知った鳥貝一弥が、東京の大学に入りアパート探しで行き詰まっていたときに声を掛けられてたどり着いた不思議な学生寮をめぐって、不思議な住人たちに翻弄され(弄ばれ)ながら、自己の出自と子どもの頃の幻と折り合いをつけていく青春小説。
奇矯な言動と少年愛志向を見せつける百合子千里(ゆきさと)をトリックスターとして、個性の強い住人たちの言動を謎解きめかしく進め、鳥貝が故郷で密会する喫茶うすゆきの女主人ミハルへの思いに少しときめかせ、少しジンとさせて終わらせる展開は巧みです。
鳥貝とミハルの危うげで切ない関係が、ただでもいいなぁと思えるところ、これが話が同性愛に進むと予期させたところで出てくるので、より効果的に使われています。
打たれた布石はほぼきれいに収束され、読み心地はいいです。不思議な学生寮に鳥貝が足を踏み入れた日に訪れた紳士の話が、さっと読むと回収されていないように読み落としそうになりますから、「たたずむ人のジャケット姿に鳥貝は思いあたるところがあった」(199ページ)はちょっと不親切かも。そこはそれくらいの方が洗練されているという評価なんでしょうけど。
結局は恵まれた学生たちのできすぎた友情物語ということになり、そこを見るとなんだかなぁと思いますが、作品としてのとりまとめ方は、巧いなぁと感心しました。

長野まゆみ 筑摩書房 2009年11月30日発行
奇矯な言動と少年愛志向を見せつける百合子千里(ゆきさと)をトリックスターとして、個性の強い住人たちの言動を謎解きめかしく進め、鳥貝が故郷で密会する喫茶うすゆきの女主人ミハルへの思いに少しときめかせ、少しジンとさせて終わらせる展開は巧みです。
鳥貝とミハルの危うげで切ない関係が、ただでもいいなぁと思えるところ、これが話が同性愛に進むと予期させたところで出てくるので、より効果的に使われています。
打たれた布石はほぼきれいに収束され、読み心地はいいです。不思議な学生寮に鳥貝が足を踏み入れた日に訪れた紳士の話が、さっと読むと回収されていないように読み落としそうになりますから、「たたずむ人のジャケット姿に鳥貝は思いあたるところがあった」(199ページ)はちょっと不親切かも。そこはそれくらいの方が洗練されているという評価なんでしょうけど。
結局は恵まれた学生たちのできすぎた友情物語ということになり、そこを見るとなんだかなぁと思いますが、作品としてのとりまとめ方は、巧いなぁと感心しました。

長野まゆみ 筑摩書房 2009年11月30日発行