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伊東良徳の超乱読読書日記

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はみだしインディアンのホントにホントの物語

2010-05-08 23:32:09 | 小説
 アメリカの先住民スポーケン族の保留地に生まれたハイスクール1年生の青年アーノルド(ジュニア)が、保留地外の白人たちが通う進学校に転校し、バスケットボールの選手として活躍するというストーリーの小説。
 冒頭、主人公が生まれたとき水頭症で吃音が残り漫画を書くということを紹介していますが、後半ではそれはほとんど顧みられず、小説の設定としては意味がない感じ。
 白人の学校で当初迫害に脅えつつも、結局は殴っても殴り返されることもなく、いじめられることもなくアーノルドは受け容れられていきます。案ずるより産むが易し、思い切ってトライすれば、なせばなると、読者の背中を押したいのでしょうけど、読み物としてはあっけなさ過ぎる。
 むしろ保留地の仲間、特に親友だったラウディから裏切り者のリンゴ(外は赤いが中身は白い)と扱われることの方が強調されています。これって白人は意外に優しいけど、仲間の先住民の方が冷たいってことでしょうか。それじゃ、まさしく「リンゴ」の文学なんじゃないでしょうか。
 2007年のアメリカの文章で「インディアン」なんて言葉がこれほど繰り返されるのはビックリしました。訳者の見識を疑いかけましたが、原題が“The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian”ですから、作者の意向なんですね。
 お話のセンスはちょっとどうかなと思いましたが、コーチが主人公に掛けた言葉「どの分野で生きるにしろ、人生の価値は、一流になるために注いだ努力に正比例する」(220ページ)は、いいなぁと思います。トルストイの「幸せな家族はどれも似通っているが、不幸せな家族はそれぞれ違う不幸を抱えている」に対して「インディアンの家族はどれも同じで、酒による不幸を抱えている」(294ページ)っていうのが切なく思えました。


原題:The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian
シャーマン・アレクシー 訳:さくまゆみこ
小学館 2010年2月1日発行 (原書は2007年)
全米図書賞、ボストングローブ・ホーンブック賞
コメント (1)
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