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伊東良徳の超乱読読書日記

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生活保護 知られざる恐怖の現場

2013-10-20 19:15:08 | ノンフィクション
 生活保護の受付や生活保護開始後の指導等の現場の状況について著者が代表を務めるNPOの活動の経験からレポートし、現在の生活保護行政の問題点を検討し、安倍政権が行おうとしている法改正がなされるとどうなるのかを論じる本。
 生活保護の申請をしに行っても窓口で申請書も渡してもらえず追い返されるという役所のいわゆる「水際作戦」が横行し、それが昨今のマスコミによる不正受給キャンペーンなどの生活保護バッシングでさらに酷くなっているという様子が、著者が代表を務めるNPO法人が扱った天王寺区と舞鶴市の事例を挙げて説明された上、生活保護の申請で追い返された後に餓死した事例や自殺した事例、さらには生活保護を一旦受給できたがケースワーカーによる医師の診断を歪曲してなされた厳しい就労指導のために生活保護を打ち切られてその後餓死した事例が紹介されています。収入も所持金もないために生活保護の申請に訪れた人を収入も所持金もないことを知っていながら追い返して餓死させるのは、行政の怠慢というレベルではなく、行政によって死に追いやっているということではないか、こういうことを許していたら生活保護は何のためにあるのかと思います。現在の日本で人を餓死させるということを役人は恥じるべきですし、その人が生活保護の申請に窓口を訪れなかった場合でさえ、生活保護を強く必要としている人を把握できなかった、生活保護という制度を活用してもらえなかった/信頼してもらえなかったこと自体を役人は恥じるべきだと思います。そういう意識を持てない役人、今よりもさらに生活保護の申請をしにくくする法改正をもくろむ役人と政治家、生活保護の不正受給ばかりをキャンペーンして生活保護バッシングに走るマスコミには、ほとほと呆れます。
 生活保護受給者が一旦生活保護を受給するとなかなかそこから脱却できないのは働けるのに勤労意欲がないからというよりも完全に生活や労働の資源を失うまで生活保護を受けさせない行政のために生活保護受給に至った時点では再就職など無理になっているためで、もっと早い段階で一時的なサポートで生活保護を受給できていればより早く再就職が可能なケースが相当あるとか、生活保護受給者がワーキングプアの労働者より収入が多いという批判は最低賃金が低すぎるためで生活保護費の削減ではなく最低賃金の方を上げるべきという著者の指摘はもっともなことと思います。


今野晴貴 ちくま新書 2013年7月10日発行
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