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伊東良徳の超乱読読書日記

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世界一賢い鳥、カラスの科学

2013-10-19 21:40:16 | 自然科学・工学系
 カラスが餌を得るために道具を利用するどころか道具を作ったり、人間の音声をまねししかもそれを聞いた人間の反応からの学習でその言葉の意味も理解しているらしいこと、人間の顔を識別し記憶と結びつけて危険な人物と友好的な人物を分別して態度を変えているなど、カラスの思考・学習能力について解説した本。
 著者の専門はフィールドワークだということですが、この本はカラスの能力についての観察や他の人の報告からの評価を最終的には脳神経科学的に説明する体裁となっていて、脳神経科学的な記述になじみのない読者にはやや取っつきにくいように思えます。特に、鳥類の脳神経科学的な説明をまとめている第2章とそこで引用されている巻末の補足図表は、この種の専門書としてはわかりやすく書かれているのだと思いますが、門外漢には眠気を誘うところで、ここをスムーズに乗り越えられるかどうかが読み通せるかどうかを左右すると思います。理論的には、そこを先に理解してもらえないと説明がしにくいということでしょうけど、素人には読みにくい部分を最初の方に持ってくるのは読者を増やすには向かない構成でしょう。
 脳重量の体重との比較では、人間は1.9%程度で、ワタリガラスは1.4%、カレドニアガラスは2.7%(50~51ページ)。鳥の脳は成鳥になっても新しいニューロンをつくりだしていて最高齢のカラスでも新たな危険や好機をすぐさま学ぶそうです(54ページ)。人間の場合、この能力はあまり発達していないとされています(同)が、この点は人間も成人しても新たなニューロンが生成されているという報告もあります。鳥類は脳の一方の半球を眠らせておいてもう一方を働かせることができる(58ページ)とか。渡り鳥や海鳥は飛びながら眠れるというわけです。
 鳥類は2本の気管支にそれぞれ2枚計4枚の唇(内鳴管筋)があるため2つのメロディをさえずることもでき(70~72ページ)、その高度な発声装置で人間の音声をまねすることは十分可能だそうです。人間の会話をまねるカラスの話がいくつも紹介されています。
 他にも、上昇気流があるところで樹皮のボードを脚でつかみウィンドサーフィンに興じるカラス(159ページ)や駐車場の車のワイパーのゴムブレードを手際よく外し続けるカラス(「ヒッチコック」と名付けられたとか:93ページ)、車が通るところに貝類を落とし車の通過後に割られた中身を食べるカラス(136ページ)など、さまざまなカラスの生態が紹介され、カラス類は、自己認識、洞察、復讐、道具使用、頭の中でのタイムトラベル、欺き、言語、遊び、計算された命知らずの行為、社会的学習、伝統といった、従来は人間だけに特有のものとされてきた特徴を備えている(262ページ)と論じられています。
 カラスの話とはずれますが、プレーリーハタネズミでは脳内物質のドーパミンがD2受容体と結合するとつがいの形成が促され、D1受容体と結合するとつがいになった雄が他の雌を選ぶ気持ちが特に減るのだそうで、雄のニューロンは交尾の後D1受容体により多くのドーパミンが結合するように変容し、それによって別の相手との絆の形成は妨げられ、本当に生涯にわたる単婚が強化されるとされています(192ページ)。う~ん、貞操を守るかどうかは結局化学物質の問題なのか、意思の力は無力なのか、人間にはそういう仕組みはないのか弱いのか、あった方がいいのかない方がいいのか、そちらの方により考えさせられたりも…


原題:GIFTSOF THE CROW
ジョン・マーズラフ、トニー・エンジェル 訳:東郷えりか
河出書房新社 2013年9月30日発行 (原書は2012年)
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