原子力規制委員会の地震・津波に関する規制基準の検討チームに参加した変動地形学者である著者が、なぜこれまで原発周辺の活断層が見過ごされてきたかをはじめとする原発と活断層の問題を解説した本。
福島原発事故後、原子力規制委員会が敦賀原発2号機などで原発の敷地直下の断層を調査して活断層と判断したことから、原発と活断層の問題が注目を集めています。しかし著者が指摘するように、活断層の評価・判断の基準は、原子力規制委員会で規則の形にされより拘束力が強まったものの、基準の内容自体はほとんど変わっていません。実は、福島原発事故よりも前の2006年の改訂指針で耐震設計上考慮する活断層は「後期更新世以降(12~13万年前以降)の活動が否定できないもの」とされ、2008年に定められた活断層等に関する安全審査の手引きでは、いずれかの調査手法によって耐震設計上考慮する活断層が存在する可能性が推定される場合には安全側の判断を行うことなど、端的に言えば変動地形学の手法で活断層と判断される場合には他の方法で活断層であることが否定できなければ活断層として扱うことが定められていました。要するに活断層かどうかわからないときは活断層と扱うというルールが明記されたのです。
ところが、そのように基準が定められた後も、事業者は活断層であることが明確にならない限りは活断層を想定する必要はないという立場をとり続け、行政もそれを追認してきたのです。そのことについて著者は、現在の原発各サイトが立地された頃は活断層や活断層調査についての知見が十分ではなかったこと、活断層の調査が立地時点ではなく立地決定後の施設の安全審査の段階で初めてなされる(そのため事業者としてはもう引き返せないという思いが強い)こと、活断層調査が事業者の手でなされ規制当局は事業者が提出する資料をチェックするだけという態勢であること、活断層調査は調査計画が最も重要で例えばトレンチ調査の場所を数メートルずらすだけで活断層が存在してもその存在を確認できなくなるという性質のものであること、その調査を活断層を可能な限り否定したい事業者任せにしたのでは活断層が発見できる可能性は低くなることなどを指摘しています。
著者の指摘は、福島原発後に発足した原子力規制委員会で、学会が推薦した学者によって構成されたメンバーでトレンチを掘る場所なども指定して活断層調査をすると、これまで規制当局の判断でも活断層性が否定されてきた原発敷地内の断層が次々と活断層と判明していったことからも裏付けられます。事業者側はメンバーの人選が偏っているなどと言っているようですが、これまでの原子力ムラの御用学者が一本釣りされていた時代こそが不公正の極みだったわけで、学会の推薦による人選は科学的見地からの極めて公正なものと評価できます。
この本では、そういった活断層判定に関する基準や評価方法の移り変わりと最近話題となっている各原発サイトの活断層の様子について、初心者向けにわかりやすく、広く薄く解説しています。
原子力規制委員会での活断層問題は、今のところ敷地直下の活断層問題に集中していて、敷地直下以外でも周辺に活断層がある場合の評価などの問題が置き去りにされている感があります。また島崎委員が担当する活断層問題では、旧原子力安全・保安院等よりも厳しい規制をする姿勢を見せている原子力規制委員会ですが、他の分野では旧原子力安全・保安院等と変わらないとか前より酷い(規制が後退している)と評価できますし、島崎委員の任期が来年切れれば後任にまた原子力ムラの御用学者が起用されて元の木阿弥という恐れがあります(なんせ、原発推進一辺倒の政権ですからね。汚染水だけでなく活断層も「コントロールされている」なんて言い出すかも)。そんなことにならないように良識ある人が頑張って欲しいと思うのですが。
なお、弁護士の感覚でいうと、この本に書かれている問題意識は、判断者の公正さ、証拠が一方当事者の手にあるときの立証の際の判断者の指導のあり方(証拠開示や調査命令)、そして事実がどちらかハッキリしないときにどちらに結論を出すかの基準(立証責任)の問題がいかに大切かということにもつながります。活断層問題のみならず、一般的に事実を認定評価することとはという問題にまで考えを及ぼすことができます。
ちょっと最後は問題を拡げすぎましたが、原発と活断層の問題について知り、いろいろなことを考える上で有益な本だと思います。

鈴木康弘 岩波科学ライブラリー 2013年9月4日発行
福島原発事故後、原子力規制委員会が敦賀原発2号機などで原発の敷地直下の断層を調査して活断層と判断したことから、原発と活断層の問題が注目を集めています。しかし著者が指摘するように、活断層の評価・判断の基準は、原子力規制委員会で規則の形にされより拘束力が強まったものの、基準の内容自体はほとんど変わっていません。実は、福島原発事故よりも前の2006年の改訂指針で耐震設計上考慮する活断層は「後期更新世以降(12~13万年前以降)の活動が否定できないもの」とされ、2008年に定められた活断層等に関する安全審査の手引きでは、いずれかの調査手法によって耐震設計上考慮する活断層が存在する可能性が推定される場合には安全側の判断を行うことなど、端的に言えば変動地形学の手法で活断層と判断される場合には他の方法で活断層であることが否定できなければ活断層として扱うことが定められていました。要するに活断層かどうかわからないときは活断層と扱うというルールが明記されたのです。
ところが、そのように基準が定められた後も、事業者は活断層であることが明確にならない限りは活断層を想定する必要はないという立場をとり続け、行政もそれを追認してきたのです。そのことについて著者は、現在の原発各サイトが立地された頃は活断層や活断層調査についての知見が十分ではなかったこと、活断層の調査が立地時点ではなく立地決定後の施設の安全審査の段階で初めてなされる(そのため事業者としてはもう引き返せないという思いが強い)こと、活断層調査が事業者の手でなされ規制当局は事業者が提出する資料をチェックするだけという態勢であること、活断層調査は調査計画が最も重要で例えばトレンチ調査の場所を数メートルずらすだけで活断層が存在してもその存在を確認できなくなるという性質のものであること、その調査を活断層を可能な限り否定したい事業者任せにしたのでは活断層が発見できる可能性は低くなることなどを指摘しています。
著者の指摘は、福島原発後に発足した原子力規制委員会で、学会が推薦した学者によって構成されたメンバーでトレンチを掘る場所なども指定して活断層調査をすると、これまで規制当局の判断でも活断層性が否定されてきた原発敷地内の断層が次々と活断層と判明していったことからも裏付けられます。事業者側はメンバーの人選が偏っているなどと言っているようですが、これまでの原子力ムラの御用学者が一本釣りされていた時代こそが不公正の極みだったわけで、学会の推薦による人選は科学的見地からの極めて公正なものと評価できます。
この本では、そういった活断層判定に関する基準や評価方法の移り変わりと最近話題となっている各原発サイトの活断層の様子について、初心者向けにわかりやすく、広く薄く解説しています。
原子力規制委員会での活断層問題は、今のところ敷地直下の活断層問題に集中していて、敷地直下以外でも周辺に活断層がある場合の評価などの問題が置き去りにされている感があります。また島崎委員が担当する活断層問題では、旧原子力安全・保安院等よりも厳しい規制をする姿勢を見せている原子力規制委員会ですが、他の分野では旧原子力安全・保安院等と変わらないとか前より酷い(規制が後退している)と評価できますし、島崎委員の任期が来年切れれば後任にまた原子力ムラの御用学者が起用されて元の木阿弥という恐れがあります(なんせ、原発推進一辺倒の政権ですからね。汚染水だけでなく活断層も「コントロールされている」なんて言い出すかも)。そんなことにならないように良識ある人が頑張って欲しいと思うのですが。
なお、弁護士の感覚でいうと、この本に書かれている問題意識は、判断者の公正さ、証拠が一方当事者の手にあるときの立証の際の判断者の指導のあり方(証拠開示や調査命令)、そして事実がどちらかハッキリしないときにどちらに結論を出すかの基準(立証責任)の問題がいかに大切かということにもつながります。活断層問題のみならず、一般的に事実を認定評価することとはという問題にまで考えを及ぼすことができます。
ちょっと最後は問題を拡げすぎましたが、原発と活断層の問題について知り、いろいろなことを考える上で有益な本だと思います。

鈴木康弘 岩波科学ライブラリー 2013年9月4日発行