白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

つつみのおひなっこ

2011-04-05 | 画廊の様子


四月五日は旧のひなまつりです。

仙台市のはずれの堤町というところで三百年も前から作られている
お人形でつつみのおひなっこと呼ばれる土のお人形がありました。
粘土でこねて型に入れ乾いたら焼いてそれから色を塗ります。
一筆一筆、長い髪やお顔やおひなさまの刀や扇、細かい持ち物など
丁寧に描かれていました。
ある日、若いお父さんが生まれたばかりの女の子のために
おひなさまを一組買っていきました。十五人そろった可愛いおひなさま
です。
女の子は少し大きくなるまでこのおひなさまと桃の節句をお祝い
しました。
お友達の家の美しい衣裳を着けたおひなさまを羨ましくも思い
ましたがこの土のおひなさまが大好きでした。
そのうち、日本は世界を相手に戦争を始めました。
女の子が六年生になった春、おひなさまにお別れを言うために
箱から出して最後のお節句をお祝いしました。
その年の七月九日に仙台のまちは134機のB29というアメリカの
戦闘機で焼き尽くされました。
女の子は焼け野原の中に夕べまで住んでいた我が家を探しました。
こども部屋だったあたりに茶色の塊がいくつかころがっているのを
見つけました。「あっ、おひなさまっ」土から生まれて火をくぐって
作られたおひなさまはもう一度火で焼かれて土にかえりました。
もう、堤の職人さんは戦争に行ってしまいお人形を作る人が
いなくなりました。
女の子はもう一度あのおひなさまに会いたいと思っていました。
   
   今から三十年ほどまえに「暮らしの手帖」に
   紹介された一冊の絵本つつみのおひなっこはサブタイトルが
   ~仙台空襲ものがたり~とあり仙台文化出版社により作られ
   ました。
 
仙台の町はそれからも、何度もなんども大きな災害にみまわれて来ました。
その度に、多くの命が失われ町並みも破壊されました。
しかし、深い緑と清らかな水、気高く美しいお城は町を守り再生の力と
なりました。

今、また、仙台の位置する東北地方は大きな大きな試練の中にあります。
心の痛み、体の痛み、人生の痛みに耐えていながら互いの命を支えあう
尊い姿に、その力強さに圧倒されます。

あの、女の子はお元気でしょうか。
八十歳に近くなられたでしょう。
もう一度つつみのおひなっこに会えたでしょうか。
この大きな困難の中にある人々と一緒に必ず再生復活への
希望を胸に生きていてください。
                          s・y