眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

春の出来事

2012-04-03 | 
震えるほどの郷愁を
 僕らは世界と呼んだ
  桜が満開で
   長い石畳の坂を登ると
    其処にかつての僕の姿が現れるのだ
     少年は気に入りの詩集を手にし
      そっと辺りを見回してから
       隠れる様に煙草に火を点ける
        それから桜の木下で
         煙を吹かし詩集に目を落とす
          
         不確かな存在
          君はまだ気付かない
           音楽室に忍び込み
            教師しか触る事が許されなかったオーディオで
             古臭いレコードに大切に針を落とした

             ジョン・レノンのアルバムだ

             そう
            憶えている
           かつての記憶の残渣と共に
          僕らは椅子に座り込み
         煙を嗜みながら音楽に集中した

        ふいにアルトリコーダーの音色が聴こえた

       何の前触れも無く
      君が現れた

     また君かい?
    音楽室の備品は勝手に使用する事を禁じられているんだ。
   それに、煙草。
  未成年なのに煙草を吸うなんて

僕は面白そうに言葉を並べた

  学校の備品は我々学生のものだよ。
   それに神様は何も禁止しちゃいない。
    煙草もワインもね。

    君は呆れれた顔で僕を穴が開くほど眺めた

    それで君は音楽室で煙草を吸いワインを飲んでいるんだね?

     そう。よかったら君も一杯どう?

      今すぐ煙草とワインをかたずけるんだ。
       僕が担任に云いつけるまでにね。

       僕はため息を吐きながら残ったワインを一息で飲み干し
        煙草の根元まで吸い終えてから
         シガレットケースと灰皿をかたずけた

         これで文句無いだろう。
          それと、
           君のリコーダー良かったよ。
            ショパンをリコーダーで吹く奴がいるなんて、
             まるで冗談さ。

             聴こえてたのかい?

            君は一瞬顔を紅くした

           聴こえてきたんだよ。
          比較的まともな音楽だった、不愉快にならないくらいには、ね。

         馬鹿にしてるの?

        君は大真面目で僕を問い詰めた

       そうじゃないさ。ずいぶん感心してるだけだよ。

      そういって僕は黒いギターケースから楽器を取り出した

     ギター弾けるのかい?

    下手くそだけどね。コード弾きくらいなら問題ないよ。
   なにを突っ立ってんさ。早く何か吹いてよ。

  ギターに合わせて吹くのかい?

 君は少しばかり神経質だった

でも音が漏れると先生達に見つかるし。

 やれやれ、と僕は呟いた

  ここは音楽室なんだ。音楽を探求する僕らが文句を云われる筋合いはないね。

   君は軽くうなずいてリコーダーでグリーンスリーブスを吹いた
    僕は簡単なコード進行で伴奏をひいた

     曲を吹き終えると君は興奮気味に僕に語りかけた

      すごく楽しかった。
       一人で吹くよりずっとね。

      ね、取引しよう。

     取引?なにを?

    僕は君が飽きるまで伴奏するよ。だからさ、

   そう云ってワインのボトルを取り出し煙草に火を点けた

  内緒にしようよ。お互い様だしね。

 一瞬むつかしい顔をして
  それから君はワインのボトルを僕の手から奪い取って
   ボトルのままワインを飲み干した

    僕は微笑みながらビートルズを弾き始めた
     少年がほろ酔いでメロデイーを奏でた

      
       不確かな存在
          君はまだ気付かない

        
       震えるほどの郷愁を
        僕らは世界と呼んだ
         桜が満開で
       長い石畳の坂を登ると
    其処にかつての僕の姿が現れるのだ


       もう消え去った存在


        宇宙のどの位に位置するのだろう


         かつての僕


        
        かつての想い出たちは

















         
        
コメント
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