眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

安息の日

2024-06-13 | 
風が吹き抜けた路地で
 黒猫がそっと語りかける
  レンガ作りの壁には忘れ去られた虚構の舞台のポスターが張られている
    地面に落ちていた案内の紙切れには
     何故だか分からない懐かしさで
      君や僕や彼等彼女等の名前が刻印されているのだ

       また風が流れた

        紙煙草に灯を点け
         無心にただ待っている
          路地を抜けると小さな公園があって
           誰もいないベンチに座り
            昔話を想い出した

            君の青い郷愁に便乗し  
             不確かな確立の中で
              きっと再会を約束した
               音や言葉や匂いで
                ざらつく世界の果てに
                 在りもしない安息の日を想った
    
                 ね

                 また手紙がついたわ

                少女が僕の手元に手紙を置いた
               僕は珈琲の黒の中に埋没し
              決して手紙を見ようとはしなかった
             憐れみに似た視線で僕の手元を観察し
            少女ははっか煙草に灯を点けながらこう告げた

           いつもの様にあなたは手紙を読まないのね?

          僕は黙って珈琲を飲んだ

         新聞も読まなければラジオも聴かないのは何故なの?

        安息の日なんだ。

       僕は珈琲の無くなったカップにバーボンを注いだ

      安息の日?

     怪訝そうに少女が僕の顔を覗き込んだ
    茶色の瞳の中に吸い込まれそうになる
   僕はバーボンを胃袋に流し込みながら話し始めた

  そう。
 氾濫した情報の波に溺れそうになるのが不安なのさ。
だから僕は手紙も新聞も読まない。
 ラジオのニュースも必要ないんだ。

  僕に必要なのは
   優しい眠りと特別な音楽だけなんだ。

    特別な音楽って?

     少女が不思議そうに質問した

      君が弾いてくれる音楽のことだよ。
       
       そして少女にギターを手渡して何か弾いてくれる様にお願いした

        少女は楽器を手にしてソファーに座り込んだ
         それから音楽を大切そうに弾いてくれた

          僕はお酒がまわってぼんやりとしていた

           送られてきた手紙には
            きっと
         忘れ去られた虚構の舞台の案内が描かれているはずだ

        けれども今の僕には
       あの風が吹き抜ける路地に辿り着く事が出来ないのだ

      哀しいけれど

     再会は果たされないのだ

    消費され磨耗されいずれ消え行く想い出たち

   少女のギターの音色に包まれて

  自然に涙が流れ始めた


 戻れない日々を想い懺悔した


  約束は果たされなかった


    永遠に
































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