眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

蝉の抜け殻

2008-12-09 | Weblog
石畳の坂道を登って、街並みや港が見渡せる高台。
寮はそんな所にあった。
僕らは多感な時期をそこで六ヵ年過ごした。
やっと手に入れたウォークマンで音楽を聞き流しながら、僕は図書館室で本をあさる休日をすごしている。
当時、僕の愛読書は多岐にわたった。ルドルフ・シュタイナーやコリン・ウィルソンの「アウトサイダー」を読み、坂口安吾をつまみに金子光春に泥酔した。
ウィリム・バロウズのサイバーパンクが最先端で、SF小説で知ったシュミッツやアン・マキャフリーで想像力を膨らます。
夏目漱石や鴎外の娘、森茉里が好きだった。懐に「イリュージョン」を持ち歩く。
そうして、コナン・ドイル。
ああ、「シャーロック・ホームズの冒険」

誰もいない事を確認しつつ、窓際で煙草に灯をつける。
一服している僕は、中庭の木陰で動く友人の影にきずいた。
  
  「獣医になりたいんだ」

少年だった彼は動物が大好きだった。
昆虫の採集に余念がなかった彼は、暑い日差しの中、今日も宝物を探して地面を掘り返していた。声をかけると、本ばっかり読んでんじゃないぞ~、と軽く手を振った。
ジャコ・パストリアスのカセットテープを聴いていた僕を彼がどついた。

  大物だ!見ろよ

友人の指先は土がついた蝉の抜け殻を自慢げに掲げていた。

  それ、どうすんの?

  おまえ、文字で遊んでどうするんだ?

まあ、彼の云う通りだ。
蝉の抜け殻を探すのも、本で夢を見るのも同じことだ。
時間をつぶすのに丁度いい。
意味なんか無かった。思春期のていたらく。

久しぶりにかって少年だった彼と飲んだ。
髭をはやして長髪だった。
仕事場で大丈夫か?と尋ねると、誰も文句いわないんだ、と云った。
彼は獣医にはならなかった。
彼の横には婚約者だという、素敵な女性が笑顔で微笑んでいた。

  蝉の抜け殻、って覚えてるか?

 おぼえているさ、今は取らないけど。

変わらない。
 意味なんてない。今も。
  ただ好きなだけ

   蝉の抜け殻

  石畳の坂の上

 それ、どうすんの?

かつて呟いた自分自身の言葉がやけに痛い



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 君と僕 | トップ | 風の吹く街 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿