眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

白い記憶の断片

2022-01-11 | 
静かな水面
 深い井戸の底には
  きっと鳥の化石が眠っている
   我々はあの時
    夢や希望をそこに封じ込めたのだ
     いつかまた出会えることを願って
      そうして
       そうしてそれから長い年月がたった
        青い月が浮かび
         赤い月が沈んだ
          もう
           井戸の場所さえ想い出せない
            彼らは其れ等を記憶と名付け
             僕等は其れを永遠と想った

             不確かな残り香を頼りに深夜の街を徘徊した
              何時間歩いても
               途切れなく続く石畳の道は終わりを指示さない
                僕は始まりを失ってしまったのだろうか?
                 だからそれは報いで
                  哀しいくらいひとりぼっちで深夜三時にバーボンを舐めるのだろうか?
                   この現実世界で空想ばかりしている
                    君と暮らした街の空を想って

                    街の空はいつだって曇り空だった
                     重く垂れこめた雲が僕等の空想を鎮圧した
                      コイン数枚だけポケットに握りしめ
                       僕等はあるだけのワインを飲み干し
                        煙草を咥えて
                         ギターを弾いた
                          僕が伴奏を弾き
                           君がメロディーを奏でた
                            ある時はブルースで  
                             ある時はジブシースイングジャズで
                              ある時には
                               まるでコード進行を無視した前衛的な手法で
                                荒唐無稽な歌を歌った
                                 煙草とお酒が無くなるまで
                                  僕等は楽器を離さなかった
                                   窓から見える冬の空は
                                    やはり重く垂れこめた灰色だった

                                     ねえ


                                   君が煙草を咥えながらくすくす微笑んだ

                                  井戸の底には何があるか知っているかい?

                                 井戸?
                                そんなもの何処にあるのさ?

                               あの森の深い場所だよ。

                             井戸の底には鳥の化石がねむっているのさ

                            僕は酔いのまわった意識で
                           ぼんやりと君の声を聴いていた

                          いつか君が其処に辿り着いたら
                         また会おうね

                        君はそう呟いて哀しそうな目で紫の煙を眺めた
                       僕は動けずにただその声の方を探した
                    
                      全て万物は夢の産物なのさ
                     君はやがてこの眠りから覚める 
                    そうして全ての物語を忘れるんだ
                   この街の風景や
                  煙草を吹かしたこの部屋や
                 僕の存在をね。

                とてもとても哀しかった
 
               だんだんと視界が狭くなっていった

              起きるんだ
       
             誰かが云った

            やがて朝が来た

          



         不慣れな日常はあっという間に過ぎ去った
        いつだって時間の流れは不可思議だった
       起きて顔を洗い歯を磨いて
      アイス珈琲を飲み干して仕事に出た
     仕事が終わると
    ありきたりな食事を済ませお酒を飲んだ
   たまに黒いギターケースから楽器を取り出し
  古い映画音楽を弾いて煙草を吸った
 何気ない時間の流れ
日常と呼ばれる空気の胎動

 月夜に縁側に出てワインを飲んだ
  
  もし

   もしこの月夜の晩に旅に出たら
    あの森の中の井戸に辿り着けるのだろうか?

      もし

        もし


         眠り続けることが出来るのなら


          井戸の底の君に会えるのだろうか?


           白いシーツに包まる僕の耳に

    
            君の声が木霊する


             点滴を早めにしておきますね。
   
             
              看護師さんが事務的に通達する


               

                
                街では明日雪が降るらしい

                 
                 灰色の街に降り積もる白い雪

 
                  白い記憶の断片

















                              

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