眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

砂時計

2013-01-07 | 
その頃僕は不必要なものだけを集めた
 なるべく意味の見当たらない壊れた部品や
  ワインの空き瓶
   古臭い音楽
    使い道の分らない道具
     鳴らないオルゴール
      インクの切れた万年筆
       時を刻まない時計
        受信しないラジオ
         茶色く変色した文庫本
          届くはずの無い手紙

          そんな類だ

         そうして
        その中でも特にお気に入りだったのは
       骨董屋で雨の日に手に入れた
      小さな砂時計だった
     僕は深夜2時に青い月明かりの窓で
    飽きもせず砂が零れ落ちる情景を眺めた
   砂が失くなってしまうと
  砂時計を逆さにしてまた砂が落ちてゆくのを眺め続け
 ワインやらウイスキーやらを舐めた
雨の夜には部屋に蝋燭を灯し
 煙草を吸いながらただぼんやりとしていた
  その当時の僕の存在がそうであった様に
   ただぼんやりとしていた

    零れ落ちる砂は音を立てなかった
     それで僕は
      時間には音が無いんだ
       と奇妙に納得した
        世界は音も無く消失される
         そして誰かが砂時計をひっくり返す
          そうやって時間が永遠に失われ続けた
           そんなことをぼんやりと考えていた

           くるり

           時間というのは
          深海に降り注ぐプランクトンの死骸の様に
         だんだんと積み重なり
        地盤の様に幾重にも層を成し
       そこで鳥の化石が眠っているものだと想っていた
      古い井戸の底に記憶が安置されているのだと信じていたのだ
     でもそれは全くの思い込みだった
    時間は永遠に失われ続けるのだ
   膨大な記憶はやがて磨耗され
  次の瞬間僕の存在やあらゆる事象が消えてゆく
 きれいさっぱり消されるのだ
まるで授業中に描いた落書きが
 新しい消しゴムで消される様に
  跡形も無く存在を消去される
   必要なものにも不必要なものにも
    大して意味など無かった
     万物は永遠に零れ落ちるのだ

     僕は砂時計の零れ落ちる砂を
      ただ眺めていた

     そこには奇妙な優しさと哀しみがあった
    僕はその優しさと哀しみを感じながら
   飽きもせず煙草を吹かし酒を舐めた
  静かな時代だった
 仲間がたむろする店のドアを開け
自分の部屋に帰ると
 僕は独りでぼんやりと酔いの回った頭で
  砂時計を眺めた
   そうしてぼんやりとした自分の存在に関して
    ぼんやりと考えた
     部屋の中は不必要なもので溢れかえっていた
      思い出したように
       白いノートに言葉を紡いだ

       そこには意味など見当たらなかった
      そうして今だって僕にはあらゆる意味が見当たらない
     いつだって時間は音も無く
    永遠に零れ落ちる

   誰かの悲しみや苦しみや切なさや

  暖かい記憶や懺悔や感謝の祈りも

 全てが

音も無く零れ落ちるのだ


  永遠に 








            
コメント (4)
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