眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

フィルム

2012-01-01 | 
フィルムがある
 机の上に置かれた林檎が
  時間の流れと共に少しずつ腐ってゆく映像
   古めかしい映写機がじ・じ・じ
    と音を立てている
     隣の席の君がそっと呟いた
      まるで人間の類だね
       ジ・ジ・ジ
        前列の誰かが劇場内で煙草に灯をつける
         暗闇に紅い灯が
          まるで蛍の様に見えて
           煙草の慣れ親しんだ香りが漂った

           小劇場を出ると外気が僕等の熱を奪い去った
            公園のベンチに僕等は座り込み
             鳩にパン屑をやる初老の男性を
              ただ黙って見ていた

              あのフィルムさ。
               悪意と優しさの成分で出来ているんだ。

               君が語り始めた
                僕は黙ってぼんやりと話に耳を傾ける
    
                万物は流転しやがて熟れて腐ってゆくんだ。
                 建物も果物も人も例外なくね。
                  ただ其れを直面化することに
                   どれだけの意味があるのかな?

                   やがてあのフィルムも劣化し磨耗され
                    いずれ消え去るのさ。
                     それが時間なんだ。
                      ね、
                       君はどう想う?

                      僕はホットドックを齧りながら
                       コーラを飲んで
                        ぼんやりと意思を空に投げた

                        青い空

                       空気の透明度が増し

                      空の青さに泣きたくなった

                 ごめん。君を困らせるつもりじゃなかったんだ。
     
               君はそれから僕と同じ様にホットドックを齧った
              多めのケチャップが君の口を紅く染めた
             僕等は並んでただホットドックを齧った
            食べ咀嚼し嚥下する
           ただその一連の操作だけが
          生きている実態そのものだった

         僕等は果たして天上のどの階層に存在しているのだろう?

        ただ磨耗しこの世界から消え去るまで
       存在を猶予された
      あの時の僕等はきっとその事に気付いていたのだ
     世界の意味
    ホットドックのケチャップ
   腐ってゆく林檎

  墜落した飛行船
 惰眠したセルロイドの人形
  青い目の道化師が紅い舌を出す
   肥大した空虚感
    
    孤独はね、こわいね。
     独りきりで腐ってゆくことには到底耐えられない。

      紅い風船が空気より軽い密度で高い空に消えてゆく

       全ては巧妙に仕組まれた悪戯なんだ。
        あのフィルムの映像の様に。
     
        ごらん。
         世界の失楽を。

          僕はそれから百年後に
           同じ光景を視界の範疇に入れる
            それが君との約束だったからだ

            緑の草原にたたずんだ僕は

            ただ愚かしいほど立ち尽くし

             世界を眺める

            あの時見たフィルムの映像を見たように


           心臓の心拍数が乱れ

          体内酸素飽和度の値が低すぎる

         やがて微熱と共に

        何時かの光景は

       途切れがちな意識に鎮座する


      フィルムは何処だい?


    くすくすと君の笑い声が耳朶を舐める

  
   消えてしまったよ


  膨大な記憶と共に


 腐りかけた林檎の様に











コメント (4)
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