眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

音楽会

2010-05-17 | 
誰かに蹴られた。
ベットの中で毛布に包まっていた僕は、一瞬何がなんだかわからなかった。
そして次の瞬間、僕の毛布は無残にも引き剥がされたのだった。
「あなた、まだ寝てるの?いいかげん起きてよね。」
窓から差し込む陽射しがまぶしい。僕はあたまを抱えてうずくまった。
「今日は音楽の練習の日!あなた、またお酒のんでたんでしょう。」
少女が手荒く、水の入ったグラスを差し出す。そうとう怒っているようだ。
「私との約束より、お酒のほうが大事なんでしょう?」
「そんなことないよ、どっちも大事さ。」
彼女は完全に呆れて、自分のギターケースを開き始めた。
僕もさすがにベットから起き上がり、水を一息で飲み干して自分のギターケースを開いた。

少女はソプラノ・ギターを調弦している。
ソプラノ・ギターは普通のギターより一オクターブ音域が高い。ボディはずいぶんと小柄だ。
彼女によく似合う。
少女は、音を確かめるようにコードをシャラン、とならした。まるでオルゴールのような繊細な響をしている。僕もギターを引っ張り出し、調弦を始めた。
一弦の音、ちょうだい、と云うと彼女は黙って、ポーン、と音をくれた。
「あなたね、音楽するのとお酒飲むのとどっちが好き?」
「お酒飲みながら音楽するのがいちばんすき。」
少女はその言葉を完璧に無視した、完全に怒らせてしまったようだ。
僕も黙って調弦に集中した。

「何から弾く?」
僕が云うと、なんでもいい、とぶっきらぼうに彼女はこたえた。
もちろん僕のほうが悪いので、それ以上何も言わずギターを弾いた。ソプラノ・ギターのメロディーが、それにあわせて流れてくる。

幸せな午後のひととき。
僕らは音を紡ぎ合わせる。窓の外には、青い空が広がっている。
音楽会まであとすこしなんだから、ぶつぶつ少女がつぶやく。
酔いがまだまわっているようだ。
音に包まれて、僕はしあわせな気持ちにひたった。




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