眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

19世紀ギター

2005-09-13 | 音楽
ワインを飲みすぎた翌日の朝はつらい。
頭が割れそうに痛くって吐き気が止まない。そんな朝は、まるでアルコールで脳みそを消毒した気分になる。奇妙にすっきりしている。

先生の自宅でワインの空き瓶を並べ、僕らはいろいろな話をする。
酔っ払いの戯言。けれども僕らは、音楽で心を開くことができると信じている。
音のつらなりが世界を変える、と酔っ払った勢いで語り合う。
世界の在り様を変える。
まるで、ジム・モリスンかウィリアム・バロウズだ。
酔っ払う。
親密な空気が優しい夜。外は雨だったようだ。

暑かった夏もやがて過ぎ去るだろう、かつてそこに存在した人々が何処かへ消え去っていった様に。それは、いいことでもなく悪いことでもない。
ただ寂しいだけ。
刻は過ぎ行く。

先生は滅多に通してくれない部屋に僕を呼んだ。
冷房が一日中かけられ、室温と湿度が平均的に保たれている。
ギターを置く部屋だ。
先生は、おもむろにケースを開き、四本のギターを並べた。
どれも先生がメインで使う大切な楽器だ。僕はこのギターのケースを持たせてもらえるのに三年かかった。

 「sherbet、ギター触ってないだろ。好きなの使っていいぞ。」

先生はそう云って珈琲を沸かしに消えた。

    僕は丁寧に四本のギターに手を触れた。

一本一本性格が違う。でもみんな素晴らしい音色をしていた。
僕は、四本のギターを弾き比べながら音の世界に身を浸した。
二ヶ月ぶりに楽器に触れる。
久しぶりにギターをかまえると、なんだか見ず知らずの楽器を手にしているようだ。約二時間くらい音で遊んだ。

そのなかでも、僕の心を捉えて話さない楽器があった。
19世紀ギターだ。
もちろん僕は弾かせてもらうのは初めてだ。
かまえると、現代ギターのボディーよりもひとまわり小ぶりだ。
弦のテンションが異常に柔らかだ。
音を出して驚いた。意外に音量があるのだ。そしてその音色はなんか上手く表現できない。
簡単に云うと、親密な音。
指先の爪を落とした指頭のかすかなタッチにも反応する。
今、僕が欲している音がこの音色だったんだ。

  何も考えず、指が憶えている曲を片っ端から弾いた。
    弾きながらしあわせだった。
     先生の気持ちや、いろんな人の顔が浮かんだ。

いろんな気持ちや価値観があるように、いろんな音楽があり、いろんな楽器がある。いろんな感情があり、いろんな世界が無数に広がっている。

    僕は親密な音楽にとても惹かれる。

19世紀ギターの音色は、そんな瞬間を僕にくれたんだ。






コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする