将棋 若手同士の大熱戦 藤井聡太七段vs佐々木大地五段 第67期王座戦

2019年06月07日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 2日連続で、すごい将棋を観てしまった。

 ここんとこ当ページは将棋成分が多めであるが、あつかう棋譜は前回の「中原誠谷川浩司の名人戦」(→こちら)のような、過去名局にかたよっている。

 それはまあ、最近の将棋はほとんどネット中継されてるし、それこそYouTubeなんかでの解説やソフトを使った解析も充実しているため、わざわざ私がレポートしなくてもいいかなと。

 なにより、個人的にはの将棋は若い人や、われわれ古参ファンと違ったユニークな視点で将棋を楽しんでいる、新規ファンのみなさんに語っていただいて、それを聞いたり読んだりしたい。

 というわけで、今見られる将棋を語ることは少ないんだけど、今回はあまりの熱戦に興奮冷めやらぬ将棋が、2連チャンで続いたので、ちょっと取り上げてみたい。

 まず一局目が、王座戦挑戦者決定トーナメント。

 藤井聡太七段と、佐々木大地五段との一戦。

 この2人といえば、佐々木大地が必勝の将棋を、大トン死で落とすという衝撃の結末があった。

 

 

2017年の叡王戦予選。▲64銀と打ったのが敗着で、ここは▲73飛成から長手順の詰みがあった。 
秒読みで踏みこむのはリスクが高いなら、銀打ちの代わりに▲64金とすれば、実戦の△58馬、▲同玉、△36角に▲47銀で詰まず、佐々木が勝ちだった。

 

 この再戦は決勝トーナメントという大舞台にくわえて、勝てば羽生善治九段と対戦できるという「ボーナス」もついてくる。

 くやしい負け方をした佐々木大地にとっては、絶好の復讐戦であり、気合も入りまくっていることであろう。

 そんな期待通り、将棋のほうは熱戦になった。

 私が中継をつけたのが、この局面。

 

 

 華麗な跳ねで、藤井が快調に攻めているように見える。

 ▲同歩△46桂でシビれる。

 △14角と眉間をスナイプされる筋もあって、一目先手が受けにくそうだが、佐々木の次の手が、ねばり強い一着だった。

 

 

 

 

 


 ▲47金とここに打つのが、師匠ゆずりのしぶとい手。
 
 『将棋世界』の順位戦レポートで泉正樹八段

 

 「佐々木大地の玉は、死んだと思ったところからよみがえる」

 

 といったようなことを書かれていたが、まさにそんな形。

 藤井七段も△26桂と自然な攻めだが、▲36銀とブロックして容易には負けない。

 この局面で、解説の深浦康市九段(佐々木五段の師匠)と藤森哲也五段のやり取りが、なかなか楽しい。

 

 藤森「ほら、▲36銀と打って、まだまだやれますよ」

 深浦「(肩を落としながら)ホントに? てっちゃん、そんな気をつかわなくていいんだよ」

 藤森「いや先生、本当ですって!」

 

 以下、藤井も△38桂成▲同金△36飛と切りとばして、▲同金△69銀と迫る。

 するどい攻めだが、▲同玉△57桂成▲32飛と反撃して、たしかに簡単ではなさそう。

 少し進んで、この局面。

 

 

 この▲92銀が、深浦いわく「男らしい手」。

 私の第一感は、▲66馬攻防に活用する手。

 深浦も「佐々木ならこっち」と同じ予想していたが(もっとも佐々木五段なら「手厚く」で私なら「フルえて」の違いはあるが)、ここは一気の踏みこみ。

 正直、善悪はまったくわからないけど、佐々木五段の気合が感じられる手で、熱いではないか。

 ここまでは、佐々木の苦しいながらの勝負手が見せ所だったが、ここからはお待たせ「藤井聡太ショー」の時間。

 たとえば、この場面。

 

 

 

 先手が▲61桂成と成り捨てたところ。

 △同銀△同金かに2択で、どちらを選ぶのかと見ていると、

 

 

 

 

 △94銀(!)と、捨駒のお返しがスゴイ手。 

 先手の▲61桂成というのもギリギリの手だが、それに対して中空を捨てる犠打。

 単に△61同金▲42竜と取られて、8筋も利くし、危ないと見たのか。

 意味としては、▲92飛△83玉▲94飛成と成り返る、詰み筋を消したわけ。

 というのはわかるけど、一歩間違うと、タダで渡した利敵行為にもなりかねず、実際あぶない手だったようだが、秒読みでこれを選べる決断力がスゴイ。

 ただ、深浦いわく

 

 「こういう手を指されても落ち着いていられるのが、佐々木のいいところ」

 

 じっと▲34竜と引きつけて、△95銀▲85飛と上部を押さえる。

 

 

 大駒3枚攻防に利かして、負けにくい形を作る佐々木だが、藤井はさらなる鬼手を用意していた。

 

 

 

 

 △83銀と上がるのが、これまたスゴイ手。

 ▲95飛と取った形で、▲91銀△72玉▲92飛成とする寄せを防ぎながらの移動合で、いかにも詰将棋の得意な藤井らしい。

 藤井将棋の魅力は、あの中田宏樹八段戦での「△62銀」のように、トリッキーな手を、きわどく通してくるところにもある。

 

 

2019年の第32期竜王戦4組予選。中田宏樹八段と藤井聡太七段の一戦。
▲54步に△62銀と引いたのが、絶体絶命の場面で飛び出した最後の勝負手。
ここで▲24金とすれば難解ながらも先手勝ちだったが、中田は▲同竜と取ってしまい、△68竜、▲同玉、△67香からトン死で大逆転。

 

 

 そして、この日のハイライトがこの場面。

 

 

 ここでは▲72竜と切って、以下比較的簡単な詰みだったが(ただし深浦九段も藤森五段も気づいてなかった)、佐々木五段は▲54桂から入る。

 ここは詰みは逃しても、冷静に▲86馬と逃げておくくらいで、勝ちは維持できてたようだが、先手は果敢にを捨てて寄せに出る。

 玉が上部に逃げ出して、にわかにアヤシイ形に。

 これには深浦も、

 

 「これ佐々木、やっちゃんたんじゃないの?」
 
 

 なんて大慌て

 ただ、最短こそ逃したものの、佐々木の指し手は落ち着いていて、最後は残していたようだ。

 最終盤、△97角と打ったのが「最後のお願い」という王手。

 

 

 一見「形作り」のように見せて、これがおそろしい罠なのである。

 ▲同香△99飛

 ▲89に下手な合駒すると△87桂と打って、▲88玉△97飛成

 ▲87同金△78銀と打たれてトン死してしまうのだ!

 佐々木五段にとっては、あの叡王戦の悪夢がよみがえったか。

 もっとも、この場面はマス目もせまく、手が限定されて読みやすい形ではある。

 

 

 

 

 

 ▲89桂と合駒するのが最善で、これだと△87桂▲88玉△97飛成▲同桂で不詰。

 ここで藤井が投了

 佐々木のねばり強さ、藤井のひらめきと精密な読み

 両者の持ち味が存分に出た、とてもおもしろい将棋で大満足の一夜でした。

 

 (豊島将之vs渡辺明の棋聖戦に続く→こちら

  


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