「【駒落ち】って強くなれるの?」の回答 上手篇

2024年02月29日 | 将棋・雑談

 駒落ちの将棋は棋力向上に役立つのでしょうか」

 

 先日、ネットで将棋の調べ物をしていると、そんな質問をしている人を見つけた。

 ネット将棋が主流な昨今、駒落ちを指す機会がないに等しいにもかかわらず、飛車落ち角落ちのような「実戦」として出てこない形を練習する意味があるのか。

 みたいな内容で、ナルホド言われてみれば、そう感じる人がいてもおかしくない。

 コアな将棋ファンはこういう声に

 

 「いやいや初心者のころは、むしろ駒落ちこそが強くなる早道」

 「強い人と《互角》の手合いで戦えることは、いい経験になるよ」

 「駒落ちは相手にスキがあるから、《弱点を突く》戦い方を学べるんだ」

 

 などなど実例とかあげながら、いろいろ解説できるんだろうけど、私はこの話題にあまり乗っていけないところがある。

 というのも、私自身に駒落ちの経験というのが、ほとんどないから。

 そもそも、駒落ち将棋を指す場所というのは、その多くが町の「道場」とか「将棋センター」みたいなところであろう。

 はじめて門をくぐると、そこの席主


 「坊や、おっちゃんと一局やろか」


 と声をかけてくる人懐っこいオジサン相手に、棋力の測定や、平手でちょうどいい相手がいないときなんかに指してもらうのだ。

 ところが私の通っていた「南波道場」(仮名)では、それがなかった。

 ここでは大人が子供を相手にするとき、なぜか「オール平手」。

 有段者と初心者が当たっても平手。とにかく平手。

 道場に私以外の子供がいなかったのは、大人が容赦なく負かしてワンワン泣かせるから。

 まあオッチャンたちも悪気はないんだけど、たぶん単純に「負けたくなかった」からだったと思う。

 いくら上級者でも、ハンディつけると事故も起こるわけで、将棋って負けるとカッとなりますもんね。

 なので、私も定番の六枚落ちはおろか、飛車落ち角落ちという手合いを一度も指したことがない。

 唯一、二枚落ちだけはマスターがたまに指してくれたが、これがまたこっちが定跡通りに指そうとすると、かならず「△55歩止め」をくり出してくる。


 

 


 ふつう二枚落ちといえば、3筋と4筋に位を張る「二歩突っ切り」が必殺定跡となるはず。

 

 

 

 

 こう組まれると、上手は▲34歩△同歩▲11角成の攻めを受けるため△22銀と上がらざるを得ない。

 これで壁銀を強要できるのがメチャクチャに大きく、実質上手は「飛車角落ち」のような戦いを余儀なくされるのだ。

 超絶完成度の駒組。考えた人、スゴすぎ。

 これねえ、二枚落ちでこれを使うかどうかは、大げさでなく天地の差が出る。

 それこそ、たとえば特に策もなく漫然と駒組して(私の得意技だ)、こういう局面になったら、これはもう相当に下手が勝てない

 

 

 

 

 なので「二歩突っ切り」を嫌がる上手は、相手が4筋を突いてきたら△55歩と捨てて、▲同角なら△54銀から△45銀と繰り出して力戦に持ちこむ。

 もちろん、これはこれで定跡で、別にこれだけで下手が悪くなるわけではないんだけど、毎回同じというのは少々辟易したもの。

 一般論としては、こういうのはまず「定跡通り」に指させて、そこを一通り指せるようになって「卒業」の免状を渡してから、「定跡外し」で力がついたのか試す。

 こういう流れなんだろうけど、「南波道場」は子供も少なく、あくまでオッチャン社交場で育成の場でもなかったから、これはしょうがなかったのかもしれない。

 そんなわけで、私は六枚落ちや角落ちどころか、

 

 「二歩突っ切りからカニ囲い

 「銀多伝

 

 という算数で言えば「九九」のような道を通っておらず、駒落ちが役に立つかどうかは理屈ではわかっても、「体感」としての説得力はないのだった。

 

 

 カニ囲いからバリバリ攻める定跡で、もっともオーソドックス二枚落ちの形。攻め好きの人や二枚落ち初心者は、まずここからスタート。 

 

 

 振り飛車のような右玉のような、こちらが「銀多伝」。
 カニ囲いと違って厚みで勝負するところや、△84の金が角と交換になりがちなところなどから、じっくりとした戦いを好む人向き。「平手感覚」で指したい人にもオススメ。

 

 

 ただ変な話、駒落ちの下手は判らないけど「上手」の効用のようなものなら少し語れるかも。

 それはズバリ、

 

 「駒落ちの上手は、不利な局面をがんばる訓練になる」

 

 ネット将棋にハマっていたころ、どういう流れか、


 「よければ駒落ちでお願いします」


 という対戦依頼が入ってきたことがあった。

 二段6級くらいだったと思うが、勝った方がハンディを押し戻していく「手直り」という形。

 具体的に言うと、「落ち」からはじまってが勝てば「飛車落ち」になり、むこうが勝てば「落ち」か「平手」になる。

 駒落ちの上手なんてはじめての体験だったが、角落ちは普通にこっちが勝利。

 飛車落ちもまだ余裕があったが、二枚落ちというのが、これが鬼キツだった。

 なんせ飛車角がないということは、自分から攻めることがまったくできないということ。

 塹壕に身をひそめて、ひたすら相手の砲撃を耐えるだけというのは、なかなかのストレス。

 そのときはド根性でねばり倒して、

 

 「下位者を相手にしてるんやから、最後は花を持たせてあげんと」

 

 なんて見学していた友人に笑われたけど、逆に言うと「ゆるめる余裕」なんてないくらい、上手が大変なハンディということなのだ。

 印象は


 「働けど働けど、わが暮らし楽にならず


 いやマジで遊びなのに、終わった後にで息をしていたのは、この将棋くらいでしたよ。疲れたー。

 やってみた感覚では、本当に

 

 「不利な局面でを折らさない」

 「常に局面を複雑化することを考える」

 

 というのは終盤の「逆転術」に必須科目で、これは平手の将棋にも役に立つんではないかと、ふだんから「根性で逆転」タイプの私は思ったものだった。

 

 

二枚落ち上手のド定番である△66歩の突き出し。
これでなにが好転するわけでは無いが、▲同歩か▲同角か、それとも手抜くのかで迷わせる「コンフュージョンの呪文」。
▲同角もあるが、ここは▲同歩と取って▲67銀と好形を作るのが冷静な指し回し。
ただしプレッシャーの中、そんな落ち着いた手を選べるかはまた別問題で、それが上手のワザ。

 

 でもこれ、「序盤で先行逃げ切り」タイプには、相当楽しくないだろうなあ。

 



(容赦ない大人が集まる道場戦記と、ボンクラが初段になる方法はこちら

(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)


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