一号線を北上せよ 中原誠vs行方尚史 2003年 王位戦

2023年08月09日 | 将棋・名局

 入玉模様の将棋は得意か不得意が、わかれるものである。

 この話題となればやはり、はずせないのがこの人。中原誠十六世名人

 特に名人戦では、入玉に苦手意識を持つ谷川浩司九段を、独特の上部脱出戦術で苦しめるなど、その感覚は際立っていた。

 前回は佐藤康光九段が見せた「5点攻めを見ていただいたが、今回は中原流入玉術の最高傑作ともいえる将棋を紹介したい。


 
 2003年王位戦

 中原誠永世十段行方尚史六段の一戦。

 中原先手で相掛かり。双方玉を固め合って、この局面。

 

 

 

 堂々たる堅陣で「自然流」と「居飛車本格派」の若手らしい格調高い駒組だが、ここからの中原がすごいのだ。

 ふつうの感覚ではありえない、中原「不自然流」の一手とは。

 

 

 

 

 

 ▲97玉と上がるのが、「入玉の中原」の本領を発揮した驚愕の一着。

 金銀の連結が美しく、惚れ惚れするような理想形を築きながら、それを自らご破算にする玉あがり。

 なんじゃこりゃ、こんな手見たことないよ。

 だが、おかしなようで、これが存外にとがめる手がないらしく、行方は△45歩とやはり格調高く陣形を整備するが、▲86歩と突いてここから圧迫していく。

 以下、着々と上部を厚くして、今度は▲95歩とここから手をつける。

 

 

 

 後手から△95歩と端攻めするならわかるが、こちらからこじ開けていく発想がすごい。

 △同歩▲94歩とたらして、△同香なら▲61角で決まる。

 このままでは押さえこみ必至と後手は△84歩からもがくが、ゆうゆう▲95香と取って、△85歩▲同銀

 △56歩も筋の良い攻めだが、▲84歩と押さえられて上部を制圧完了

 

 

 以下、△39角▲38飛△57角成と食いつくも、あっさり▲同金△同歩成▲76銀と軽くかわして、それ以上の攻めはない。

 そこからは▲83歩成▲93歩成と、どんどん成駒を作って、先手陣は盤石。

 投了図では見事な銀冠の「姿焼き」が完成している。

 

 

 『将棋世界』のインタビュー形式の連載「我が棋士人生」で紹介されていた将棋だが、中原は最初から入玉をねらっていたようで、

 

 「行方君にも、こういう将棋を見せておかないとね」

 

 といったようなことを語って、楽しそうに笑っておられた。

 最初の図を見れば、こんなもんどう見ても

 「居飛車本格派のがっぷり四つ」

 としか思えないが、まさかそこから、こんな将棋になるとは思いもつかない。

 対戦していた行方も、さぞおどろいたことだろう。

 将棋の勝ち方には、色々あるものであるなあ。

 

 


 (中原が名人戦で谷川浩司に見せた入玉術はこちらこちら

 (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 

 

 


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