ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

あべのハルカズBAR 174ページ目  山椿姫を挿し木に

2014-11-11 13:49:10 | あべのハルカズBAR1 四話 完
【174ページ】



「熊野速玉大社を参拝した時、平成23年台風12号による大雨によって、

戦後最大規模 の熊野川大洪水で流された熊野牛の霊を見つけたのです。

その熊野牛を八鬼山の山神様の使いにとお願いに参りました。」

「なぜ我々の使いにと願う?」

「八鬼山の麓に、熊野牛の最大の牧場があります。

八鬼山の山神様の使いにしていただくのが一番ふさわしいと考えたのです。」

「願いは分かった!」


 オオカミの姿の山神は、酒と食べ物の供え物を見て、晴数に問う。


「これは、我々への供え物か?」

「そうです」

「昔、村人達が我々に願い事をする場合、酒や食べ物の供え物と一緒に、

村一番の娘を供えたものだ。」


 山神は、晴数の横にいる山椿姫をじっと見つめる。


「お前の横にいる娘も供えるのだな?」

「いいえ、彼女は、山椿の化身なのです。

彼女は、一日経つと枯れてしまいます。

私は、山椿を八鬼山の大地に挿し木をさせていただき、毎年花を咲かせて、

山神様に楽しんでもらうと思って持ってきました。」

「それでいい!」


山神は最後の言葉を発すると、オオカミの形がくずれ、八つの塊はくっ付き、

大きな黒い影となって、去っていった。

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