つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
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大江戸切絵図

2013年10月20日 18時09分45秒 | Weblog

 時代小説の背景は大方が江戸時代で、その文化の圧倒的優位性は今も衰えを知らない。ところで、小説は読むものの、そこに出て来る地理的な位置関係がなかなかつかめない。そこで、適当な地図はないものかと探ってみた。世の時代小説家達は、どんな地図を参考にしているのだろうかという思いもあるが、直接聞くという訳にもいかないので、Netで探してみた。

 またよく散見する「切絵図」とは、どんな絵図を言うのだろうか。図を見る限り、特に切り貼りしているようには見えないのだが??、という疑問がふと湧いた。で、例によってNetで「切絵図」を検索すると、Yahoo!百科事典(日本大百科全書/小学館)で以下のような解説があった。
http://100.yahoo.co.jp/detail/%E5%88%87%E7%B5%B5%E5%9B%B3/

 なるほど、「切絵図」は区分地図であって、特に「切り貼り」している訳ではないらしい。時代と共にその出来具合(分割数など)を追ってみると、
1670 江戸大絵図/5分割
1769 新編江戸安見図鑑/17分割
1755 吉文字屋版/8分割
1851 近吾堂版/30分割
1863 尾張屋版/31分割
1852 平野屋版/40分割
 というようなことで、「切絵図」作りの試行錯誤、苦戦の跡が伺える。

 一般に江戸切絵図とは、登場した順番に吉文字屋板、近吾堂板、尾張屋板、平野屋板の四種類を指すようで、江戸全体をカバーしたのは近吾堂板と尾張屋板。特に有名なものもこの二つなのだとか。平野屋版は方位重視で、意気込んで40分割としたが、実際は3枚ほどの発刊に止まったらしい。尾張屋板は浮世絵版画の技術を最大限に活かした多色摺りの華やかな図面が特徴となっており、おおいに江戸庶民の人気を得ていたらしい。

 近吾堂版、尾張屋版、平野屋版の発刊は「切絵図」の全盛期となるのだが、はや時は幕末、この後「尾張屋は、激動する歴史に向かって最後の江戸の姿を焼き付けるかのように、慶応から明治初年にかけてのわずか3年間に、たてつづけに28種35回もの切絵図の重版を世に出した後、江戸地図の舞台から忽然と消えていきます。」と、復刻版を手がけている岩橋美術のTop Pageで解説されている。

 もともと、神社仏閣はもとより旗本の上屋敷、中屋敷、下屋敷など武家屋敷を表すのが大きな目的でもあったから、幕藩体制が崩壊してその意味がなくなった訳で、「忽然と消え」るのも無理はない。しかし、尾張屋さんが最後に奮闘、発刊してくれたおかげで大方の「切絵図」が「江戸切絵図と言えば尾張屋版」というくらいに現存しており、今も我々を何かと楽しませてくれる貴重な資料となっているのは事実である。時代小説には欠かせないツールになっているのは勿論のことである。

◎ 人文社復刻版/江戸(切絵図)
 人文社の復刻版「切絵図」は紙ベースで愛用されていたようだが、残念ながら会社は2013年8月に(約2億7千万円の負債を抱えて)事業・業務を停止した。gooの「古地図」は人文社の協力を得て江戸(切絵図)として、Web版を掲載している。
http://map.goo.ne.jp/history/area_top.html
「嘉永・慶応 江戸切絵図/人文社」あたりがベースになっているのではないかと思うが、切絵図は30分割で、各区分を選択するとその詳細が表示される。表示画面の小さいのが残念だが拡大縮小も充分で、切絵図としての雰囲気もしっかり残しているところが良い。現代地図との比較も簡単で、いにしえを訪ねるような場合は非常に役立つに違いない。

◎ 岩橋美術Web page
 本来の原図に準じた復刻版で切絵図を見たいという方は、これが良いだろう。岩橋美術では尾張屋版32図の全てを復刻している。ただしそれは(紙ベース)地図という性格上かなり大振りとなることを覚悟しなければならない。
http://www.iwabi.jp/index.html
このWeb Pageでも、各図のView画面が用意されているが、詳細まで見ることは難しい。それよりも、「版行年一覧」というPageがあり、各図の発行履歴が興味深い。

◎ 江戸切絵図/国立国会図書館デジタル化資料
 国立国会図書館には28図の原図(尾張屋版)が所蔵されている。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1286255?tocOpened=1
PDFで保存もできる。自前印刷も可能だが、A4版では詳細判読が難しい。DownloadしたPDF版を拡大参照するよりも、Web画面を直接拡大した方が詳細明瞭である。

◎ 須原屋茂兵衛版/江戸大絵図
 安政六年(1859-1860)須原屋茂兵衛版ということで、16分割Web版がある。http://onjweb.com/netbakumaz/edomap/edomap.html
基本的には、旗本の(上、中、下)屋敷の表記が中心だが、町名、屋敷名の検索機能もある。地図上のマウスポインターで地域名、御門名、橋名等がガイドされる仕組みもあるようだ。但し、400%に拡大しても鮮明なので、見易さの点では素晴らしいが、文字の表示が本来の毛筆体からゴシック体になっているのがちょっと残念だ。堀や川の名前がまだ掲載されていないようだが、Web Pageは製作進行中(発展途上)のようで、今後にも期待できる。本所、深川付近の地図は、時代小説作家の宮部みゆき「宮部みゆき全小説ガイドブック/洋泉社」でも紹介されたらしい。

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