つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
見たこと、聞いたこと、思ったこと。

卍屋龍次地獄旅

2020年06月27日 22時41分39秒 | Review

鳴海 丈/徳間文庫

 1999年11月15日初版。「股旅・ハードボイルド」とは、いかにも本作品らしい呼称である。実は、これは官能小説でもあり、時代小説でもあり、そしてハードボイルドでもある。
 幼い頃、運命を共にしていた相方の「おゆう」を探しながら、卍屋として街道筋を旅する主人公である。「おゆう」の面影を探しながら、しかし訪れる先々でおかしな事件が身に降りかかる。街道筋、宿場町と背景を替えながらの旅は「股旅」であろう。そして、事件毎に対峙する敵との戦いに火花を散らすのが主人公の「無楽流石橋派脇差居合術」だ。
時代モノとしてはこれもまた欠かせない殺陣の場面、ハードボイルドである。その合間を接着するように必ず女が登場し、官能場面が描かれる。読者はこの三つを楽しみながら読み進む訳だ。
 個人的には、総じて股旅部分をもう少し史実に基づき充実させた作品にしてほしいと思うのだが、それは贅沢というものだろうか。


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金曜日の本屋さん

2020年06月23日 10時30分33秒 | Review

名取佐和子/ハルキ文庫

 2016年8月18日初版、2017年9月28日第五版。ファンタスティックな感じの本好きの話し。か、と言って御伽噺ではない。ミステリー・ファンとしてはやはりちょっとモノ足りない。
「金曜堂」はオーナー、店長以下、日々頑張っている訳だが、見方によっては金持ちの道楽ともいえる。本屋としては理想的なのだが、今時店じまいする本屋も多い中、商売としてはなかなか難しい。そんな中で本好きの著者が思い切り理想的に書いたのがこの作品ということになるだろう。ご多分に漏れない自分としても、気持ちは判るが、なかなか辛い世の中である

 もう一つ、「家業を継ぐ」という課題がある。本屋に限らず、日本の多くの中小企業、商店が悩んでいる後継者問題である。この作品の中でも知海書房の息子(史弥)や和久興業の息子(靖幸)が居る。親が作り上げた(積み上げた)ものと自分との間に何の関係性も見出せないことで、自信も無ければ目的も見出せず、立ち止まっている自分が居る。それが解かっていても簡単に修正も出来ない。人間というのは本当に悩ましいものだと思うが、著者はそのあたりにも実に温かい目で描写している。

 世の中に在って、自分の為すべきことに正面切って覚悟する(腹を決める)ことの難しさがここにある。それには納得も必要だし、不退転の決意も必要だ。



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アベノマスク

2020年06月19日 08時57分16秒 | 新型CORONA Virus対策

 05/25、我が家にもアベノマスクが届いた。現時点で配布できたのは国民の二割ほどだという。勤め先では素早く50枚入り一箱を所属社員に配布して既に久しい。緊急事態も解除しようかという時に何を今更の感は否めない。

 差し当たり、日本政府の「具体的な対策」の結果が目の前にある訳だが、個人として何だか寂しいし、悲しい。「迅速に決断し、切れ目なく、スピード感を持って、・・・」等々の勇ましい言葉が虚しく響く。

 職場では時短が行われ、給料は減額、勿論時間があっても何処にも出掛けられない。何等政府や自治体の支援、援助、サポートといったものが感じられないまま、ただ悶々と自粛する日々であった。
一ヵ月や二か月、給料が半減したからといって干上がることもないが、タイミングが悪いというか、間が悪いというか、中には苦境に陥る人も少なくない。そんな人々の目に今回の「アベノマスク」はどんな風に見えただろう。寂しく、悲しみを通り越し、怒りさえ覚えたのではないだろうか。

 発注先の問題、品質不良の問題、検品の問題、費用の問題。マスク2枚を配るのにこの有様なのだから、万事推して知るべしである。この「具体的な対策」がどのような過程を経て実行されたのか、今更聞きたくも無いが、事有る毎に「専門家を集めて検討」しているのに、それらしい見識も無く、また政治的英断も見当たらない。恐らく危機意識の欠如から、何の対策も思いつかなかったに違いない。更にこの後に及んで、憲法改正だの定年延長だのをゴリ押しするのは、余程他に課題が見出せなかったからではないか、と思われる。これが日本の「国会議員713人」の実体なのか。世に「給料泥棒」なる言葉があるけれども、烏合の衆と化した代議士は何と言えばいいのだろう。「三密」を避けるため、自粛していたとでも言うのだろうか。

 と、まあ言うのは簡単なのだが、ここで課題を二つ上げようと思う。

一つは、(これがキャンペーンであるとするならば)全国民に知らしめる手段として、今回の方法は最善の方法だったのか。4月1日に「マスクの配布」の方針を固め、同7日に閣議決定。実行開始に至る。その後2か月を経過しても、「マスクの配布」が出来たのは全国民の2~3割ほどらしい。実効性どころかキャンペーンとしての効果も全く消失している。この結果を踏まえ、全国民に知らしめる手段として、どうすれば良かったのか、何故こんなことになってしまったのか是非検討(反省)してもらいたい。再び事が起きた時の為にも「2週間以内に実行可能な」確固たる方法を確立すべきである。「出来ない」ではなく「出来る」策を考えよ。

 もう一つは、費用の問題。厚生労働省が旗振りすれば、安くキッチリ出来るとでも思ったのだろうか。民間と競争して、価格と納期で勝てるとでも思っているのだろうか。それとも配下の関連企業に「美味しい話」をしたかったのだろうか。発注先も渋ってなかなか公表しない。すこぶる透明性の悪い話しだと思う。どうも納得し難い透明感のない話は「森友学園/2017年」「加計学園/2017年」「桜を見る会/2019年」「検事長人事問題/2020年」「河井夫妻の選挙違反/2020年」等々、連綿と続く。その志の低さ、想像力の欠如、倫理観の希薄さ、時代錯誤も甚だしい。執行責任の欠如、議事録や記録の不在、会計基準の曖昧さ、どれを取っても今時とは思えない。何か勘違いをしているのではなかろうか。もしかしたら、政治屋の世界は実は世の中から取り残された「最もゆるい」組織なのかもしれない。「マスクの配布」が完了した時点で(いつ終わるとも知れたものではないが)、キッチリ総括してもらいたいと思う。それが出来ないのであれば、もはや「不要不急」の内閣、与野党全て退陣していただき、刷新するより他あるまい。


 

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火刑都市

2020年06月17日 12時26分18秒 | Review

島田荘司/講談社文庫

 2020/03/13初版。出だしから明らかに刑事モノ、警察モノで、東京生まれの中村吉造刑事が主人公。警備員の焼死というスッキリしない事件に遭遇し、疑問を抱きながら徒労と思えるような捜査を積み重ねていく。この過程で読者をドップリ巻き込んでいく。そうするうちに、もう一人の主人公がおぼろげに姿を現してくる。新潟越後寒川の情景は東京モンの中村刑事の視点にして、とてもよく出来ているように思う。東京モンだからこそと、言えるかもしれない。テーマとして殺人事件であることに変わりないが、背景が難しい。

この作品には2つの見方があると思う。
 一つは東京の人為的変貌に対する恐れ、或いは怒りであろうか。東京と越後寒川のあまりに大きな格差への戸惑いもある。
 もう一つは、自らの存在をどうしても正当化することが出来ない自己矛盾、自己否定の苦しみがある。源一のアイデンティティ、存在の正統性に対する自信の無さ、不確かさであろうか。

 地方から出てきたものが感じる都会の孤独、それが主人公由起子との共通、共有可能な唯一のものである。「何と孤独な人の多いことか」という刑事の思いが伝わって来る。

 主人公の母親(栄)は寒川へ帰ったけれど、この先主人公は寒川へ戻るのだろうか。前半、なかなか姿が見えない所はミステリアスだったが、全てが明るみにさらされてみれば、重苦しいばかりの顛末だった。主人公のその後がとても気になるという一冊だった。

「優れたミステリー」とは、読者にこの人は捕まってほしくないと思わせる主人公を登場させることにある、と言われているようだが、著者の創造する「再生都市」を、どのような贖罪を描き、結論(結末)付けるのか、是非読んでみたい。

 著者には2017年3月、「奇想、天を動かす」で初めて出会っている。これも刑事モノではあったが、登場する吉敷刑事は今回の作品の中村吉造刑事と実によく似ている。吉敷刑事の上司で中村主任という人物が登場するが、まさか中村吉造(主任)刑事ではないだろうなぁ。


 

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