大藪春彦/光文社文庫
1996年1月20日初版。著者の作品は「復讐の弾道」「青春は屍を越えて」に続く3冊目。やはり、TVで見たデビュー作「野獣死すべし」のインパクトが大きいのか、そのイメージを捨てきれない。「非情の標的」はデビュー作から10年後の作品である。著者には「復讐シリーズ」「掟シリーズ」等あるようだが、この作品は「復讐シリーズ」に含まれるらしい。
肉体に起きた問題「撃たれたり、切られたり、刺されたり」に対して平然と対処する姿(描写)が独特である。頼れるものは己だけという徹底した孤高精神で、一旦行動を起こすと、「銃、ナイフ、車」というツールはともかく、肉体的な不死身さは誇張としても、その前に立ち塞がる全ての障害を払いのけて突き進むというアグレッシブなヒーローである。
あらゆる困難を排して、善悪の範疇を超えて立ち向かうヒーローだが、時折見せる冷酷さ、敵対するもの達への容赦の無い攻撃、何ものにも組みしない孤高さは、弟に対する情緒的な思いを考えると、何となく矛盾する、例え小説の中であっても。
著者が師と仰いだハメットの代表作「血の収穫」「マルタの鷹」「ガラスの鍵」「影なき男」等、機会があったら是非読んでみたいものだ。