つむじ風

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海の稜線

2017年03月05日 13時51分01秒 | Review

黒川博行/創元推理文庫

 2004年3月26日初版。なかなか難解なサスペンスもの。東此花署捜査一課の巡査部長、総田 修と文田浩和のコンビが担当する「名神高速爆破事件」。例によってノラリクラリしながらも核心に迫っていく。そこに見えてきたのは古い「第二昭栄丸海難事故」だった。
 船に関する船主、船長、乗組員、船籍、保険関係など、通常触れることの無い「専門用語」的な内容だったが、その根源にあるのは結局「金」の問題であった。切羽詰った人間達の最後の手段だった。

 主人公達の悪戦苦闘は言うまでも無いが、母親と暮らす独身男の文田浩和が、キャリアの警部補、萩原 薫係長に対抗意識を持って、総田 修の娘(伶子)に手紙を出す場面が実にリアルで面白かった。なかなか先の見えない暗中模索の連続する中で、時折見せる一服だったように思う。

 著者の作品は「カウント・プラン」「悪果」に次ぐものだが、ボケと突っ込みは相変わらずで、総田と文田の関係、文田と萩原の関係で生きている。ここのところ、この絶妙な関係が面白くて黒川作品にすっかり嵌っている。「悪果」の堀内、伊達の関係ほど悪くないところがホッとした。まだ救われる。