つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
見たこと、聞いたこと、思ったこと。

一矢ノ秋

2021年02月27日 11時44分18秒 | Review

―居眠り磐音(37)―
佐伯泰英/双葉文庫

 2011年7月17日初版。姥捨の郷の戦いの話しは天明二年(1782年)頃の春の話し。田沼意次が放った刺客たちがジワジワと近づいて来る。幕府の丹の専売政策に抵抗し、且つ姥捨の郷の独立を守るため、周りを巻き込んでの闘争となった。久々に闘争、殺陣のシーンが展開する。なかなかダイナミックで読み応えのある巻だった。主人公等が「いつまでも姥捨の郷に居られない」と反撃を決意した瞬間だった。

・お有の懐妊
・田の字の監視
・瀑布の戦い
・刺客頭と直接談判
・姥捨の郷、七人の侍
・おすな捕縛
・川の道の戦い(川の道二の口)
・空の道の戦い(空の道一の口)
・大屋敷の戦い

 「姥捨の郷」は空也が生まれた故郷になる。生まれ故郷というのは独特のRootsというかIdentityを形成するもので、愛国心の根のような部分であると思う。著者がどのような思いで空也の生まれ故郷に「姥捨の郷」を設定したのか興味深い。空也はいつの日か生まれ故郷に立つことがあるのだろうか。今後の展開が楽しみなことの一つである。




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紀伊ノ変

2021年02月25日 10時52分05秒 | Review

―居眠り磐音(36)―
佐伯泰英/双葉文庫

 2011年4月17日初版。息子の誕生から始まって、平穏なはずの隠れ里にもいろいろと問題は起きる。世間とつながっていないように見えて、実は切ることの出来ない関係があった。今回は、一見困難に見える問題を、利害関係者を巻き込みながら、立ち向かう地域社会の姿がある。独自性、独立性を維持しながら生きることの難しさがある。人間、仙人のように暮らすことは難しい。

・空也誕生
・藩内の二派
・特産品の行方
・御三家の後継ぎ
・新たな刺客
・柳次郎の婚礼

 出来るだけ政には関わらないように暮らしている主人公だが、それでも抗争や軋轢に触れることは避けられない。更に執拗に田の字に雇われた唐人が送り込んでくる刺客は後を絶たない。隠れ里にあっても、一向に気の休まらない主人公であった。




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姥捨ノ郷

2021年02月23日 12時53分01秒 | Review

―居眠り磐音(35)―
佐伯泰英/双葉文庫

 2011年1月16日初版。一行の新たな逃避先は、まさかの紀州、裏高野山の隠れ里だった。泰平の世が続き、すでに雑賀衆の活躍の場は失われて久しく、僅かばかりの忍びの技が受け継がれていた。それは同行の霧子の故郷であり、里人だけが知る雑賀の邨だ。
 紀州和歌山は時代小説作家に限らず、「浅見光彦シリーズ」でも度々登場する。その自然の豊かさ、奥深さ、幽玄さに魅せられる人は多い。空海もその一人であったに違いない。

・新たな刺客
・再び逃避行
・高野山の隠れ里
・高野山奥之院の勝負
・空也誕生

 無謀にも松平辰平と重富利三郎の二人がやってきた。そして、何よりおこんに子が無事生まれて、「空也」と名付けられ、都合七人のこれからに明るさが増した。しかし、子女、年寄りばかりが暮らすこの隠れ郷に長く暮らすことも憚られる。一行の先行きはいかに。




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尾張ノ夏

2021年02月21日 13時16分19秒 | Review

―居眠り磐音(34)―
佐伯泰英/双葉文庫

 2010年9月19日初版。主人公の行く処、常に風雲立ち込める。尾張の地にも安寧を見出すことは無かった。田沼の追手は相変わらず止むことを知らず煩わしい。しかし、主人公は着々と徳をもって人とのつながり、信頼を強固に築き上げ、来るべき時に備える旅であった。

・竹村早苗、鰻蒲焼「宮戸川」に再就職
・尾張城下の暮らし
・藩道場の客分
・雹田平の策謀
・木材横流し
・示現流の二の太刀

 今津屋吉右衛門がお艶と大山参りに出掛ける前に水垢離のシーンがあった。今回、終段に金兵衛さんが大山参りの準備と称して、足腰を鍛える徒と水垢離のシーンがある。ここで唱えられているのが「懺悔、懺悔、六根罪障」というものだ。「六根の罪の懺悔(さんげ)を説いた」観普賢菩薩行法経という法典による教えだという説もある。20180520「うめ婆行状記」宇江佐真理/朝日文庫でも同様に大山に参る前の心構えとして水垢離のシーンがある。ここで唱えられたのは「六根清浄」だった。「罪障」と「清浄」は同じなのかといえば、「罪障」は「六根によって生じた、解脱の妨げになる罪業」であり、一方「清浄」は「六根から生じる迷いを断って、清らかな身になること」である。どちらも誤りと言うことはないのだが、この時代の市井の精神風土を顕著に示しているようで興味深い。



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弧愁ノ春

2021年02月19日 17時10分05秒 | Review

―居眠り磐音(33)―
佐伯泰英/双葉文庫

 2010年5月16日初版。俗に言う左遷は「都落ち」とか「島流し」とか言うけれど、追い落とされる身になれば、今まで思いも依らなかっただけに、それはそれでなかなか辛いものがある。この時代、「敗者復活」も「再チャレンジ」も見当たらない。ただいつの日か、機が熟すのを耐えて待つのみということか。

・仮の宿
・左近の無念
・江戸脱出
・猪鼻湖の作戦
・称名寺の戦い

312p「天上に彩雲あり、地に蓮の台(うてな)あり。
 東西南北広大無辺にしてその果てを人は知らず」
  「笹の葉は千代田の嵐に耐え抜き
 常しえの松の朝を待って散るべし」

 磐音の行く末を暗示するような句だ。・・暗い。




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更衣ノ鷹(上下)

2021年02月17日 10時53分05秒 | Review

―居眠り磐音(31,32)―
佐伯泰英/双葉文庫

 (上)2010年1月10日初版。2010年1月12日第2刷、(下)2010年1月10日初版。本章では西の丸が三度の鷹狩を江戸近郊で行う。陰に陽に警戒する主人公達だったが、隙を突かれて遂に毒殺を許してしまう。その結果、大きな運命の波が押し寄せることになった。

(上)
・尚武館の客分
・大納言の御鷹狩
・おこん勾引される
・雇われ暗殺者
・最後の刺客、おこん奪還
(下)
・田沼派の様子見
・佐々木家の秘事
・大納言毒を盛られて身罷る
・最後の刺客
・尚武館閉鎖の沙汰
・玲圓自裁

 佐々木玲圓が、P177「・・おこんとともに生き抜いてくれ」と言うと同時に、P183「われらは捨て石。元々武家というもの、一将のため死するが勤め」という葉隠の武士道的な言葉も残す。闘争に敗れた佐々木玲圓があまりにも潔く言葉通りに自裁してしまったことが、何とも痛ましい。

 このシリーズは比較的Happy Endな話しかと思っていたが、シリーズ最大の危機が訪れた。というより、この展開は予想になかった。シリーズ半ばにして何と大胆な展開だろうか。老中田沼意次はこの時60歳、この先69歳まで辣腕を振るったはずで、磐音、おこんの二人に、これからどのような展開が待っているのか予想も付かない。


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東京時代MAP

2021年02月16日 13時06分46秒 | Review

―大江戸編―
松岡 満/光村推古書院

 2005年10月29日初版。2017年10月5日第9刷。元図の詳細、出典は明確になっていないが、表紙の鹿児島大学付属図書館にある「御江戸大絵図」であるとしたら、それは「嘉永5年(1852年)改正、出雲寺万次郎版 岡田屋嘉七売出、折本大本、彩色江戸町図/高井蘭山 著」ということになる。この地図には「元禄9年旧版、文政5年補改、天保14年(1843年)再板の地図」という履歴があるという。それはともかく、1852年は翌年浦賀に黒船がやって来た時代であり、八年後には「桜田門外の変」が起きる江戸時代末期の江戸絵図ということになると思われる。
 例えば、本所松坂町にあったはずの吉良上野介の邸はこの地図に載っていない。松坂町、一丁目、二丁目として分割されてしまっているのである。

 時代小説の読者としては、地図を見ながら作品を読むというのは一つの楽しみな訳だが、なかなかピッタリ当てはまる地図というのはお目に掛かれない。例え付録に付いている地図であってもなかなか満足できるものではない。それは時代の縦軸(時間)の関係であったり、横軸(同時代の文化や多事)の関係であったり、個人的な趣味嗜好も関係して簡単にはまとまらないという事情がある。

 現代地図と重ね合わせるというアイデアで作成された古地図だが、横No.1から6の上、縦No.6から22の左のもう一列を増して欲しかった。この地図には吉原も無ければ、千住大橋、小塚っ原もないのは時代小説の参考資料としてちょっと寂しいものがある。
 読み物として、「忠臣蔵」や「桜田門外の変、坂下門外の変」更には「江戸の粋」「花見、月見」「六地蔵」「六阿弥陀」、「五色不動」「縁日と市」などの解説は、時代小説の背景を知る上で、なかなか興味深いものがある。但し、やはり、地図は地図、この部分は別冊にして欲しかった。
 地図だけでは薄物になることを気にしたのかもしれないが、地図の掲載範囲をもう一回り大きく取れば11Page増えて、それも気にならなかったのではないかと思う。
 そして、地図作成の上での出典を明確にして欲しい。何年頃の地図になるのか出来るだけはっきりさせることは、考証も含めて時代小説の読み手として非常に気になる部分である。

 時代小説の読み手の方々に参考資料としてWeb上の古地図を紹介しておく。

1.江戸切絵図/goo地図
 URL: https://map.goo.ne.jp/history/edo/

2.江戸時代(1840年ごろ)の地図/@chizutodesign
 URL: https://togetter.com/li/1331751

3.錦絵でたのしむ江戸の名所/国会図書館
 URL: https://www.ndl.go.jp/landmarks/index.html


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侘助ノ白

2021年02月15日 15時44分28秒 | Review

―居眠り磐音(30)―
佐伯泰英/双葉文庫

 2009年7月19日初版。長い歴史を積み重ねると多くの組織は必ず腐敗してしまう。これは人が作る組織の宿命のようなものである。そんな中で自浄能力を維持することは至難のことに違いない。

・土佐、山内家の改革
・槍折れの名人
・常泉寺の闘剣士
・小田平助、尚武館に就職決まる
・道場破り
・山内家闘争の決着

 「闘剣士」なる賭場、時代小説でこのような設定は初めて読む。言うなればコロシアムの「闘牛」であり、ストリートファイターである。その非情な、人間の貪欲な、異常なグロテスクな感覚が地下の賭場に漂う。江戸時代、本当にこのようなことがあったのだろうか。確かに武士はその剣技を競うことをためらわない。主人公も悪党をバッタバッタと薙ぎ倒すが、「闘剣士」が武士の行く末だとは考えたくもないだろう。

 土佐の藩改革はやはり血を流す結末となった。子弟の戦い、身分の戦いになった。それでも大事の紛争に至らず終息したことは改革派にとってもホッとすることに違いない。そして、道場主の勘次忠好が「達人」について語ったことは、若い利次郎に、新しい武士の行く末を指し示すことにつながったのではないだろうか。

 主人公の周辺には、相変わらず田沼派の策謀が続く。油断のならない日々だ。




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冬桜ノ雀

2021年02月13日 13時51分19秒 | Review

―居眠り磐音(29)―
佐伯泰英/双葉文庫

 2009年4月19日初版。2009年5月15日第3刷。騒動のネタは大小多々あるもので、限りない。今回は再び佐渡送りの悪党共が逃亡し、江戸の市井の人々を不安に陥れる。久々に登場した関前船は新造船。この舞台装置で一網打尽の計画だ。リスクの高い計画だったが、八方丸く収まった。ただ、再就職した門番の竹村さんだけが、何とも情けないことになり、この先が思い遣られる。

・利休の茶碗
・佐渡送りの逃走
・三味芳七代目
・最後の刺客

 最後の盲目刺客は幻術遣いか、左腕を落とされても尚諦めない。著者がどんな結末を描いているのか、とても気になる所。ここまで盛り上げて簡単に決着がつくとは思えない。




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照葉ノ露

2021年02月11日 10時18分40秒 | Review

―居眠り磐音(28)―
佐伯泰英/双葉文庫

 2009年1月18日初版。今回も細々と盛沢山。中でも竹村武左衛門の奉公「就職」の話しは、現代でもそのままである。捨てきれない武士の矜持、潰しの効かない武士という職業階級だ。過去の栄光に縋り、身に付いてしまった態度や行動様式は「それではいけない」と解っていても簡単には変えられないのが人間だ。武左衛門の気持ちはよくわかる。開いていたはずの明日が、徐々に狭まっていくことに、誰のせいでもなく年齢という抗し難い壁が立ち塞がっていることに、苛立ちと焦り、絶望が過る。素直に成り切れない自分が哀しい。

・設楽家の仇討ち
・柳原土手の掏り
・刀研ぎ屋の強盗
・竹村武左衛門のリクルート
・鐘撞き堂・毒殺事件
・西の丸・剣術指南
・同心の幼馴染
・四人目の刺客

 主人公には相変わらず差し向けられた刺客の陰が迫る。今回は薩摩示現流の遣い手を何とか倒し、残るは最後の一人となったところで次回に続く。



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