つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
見たこと、聞いたこと、思ったこと。

神苦楽島

2015年03月29日 17時04分05秒 | Review
 内田康夫/文春文庫(上、下)

 上下とも2012年11月10日初版。横軸に地理的要素を、縦軸に時間的要素を配置して、何ともスケールの大きい壮大なサスペンスだった。確かに力作である。いつものように浅見さんは活躍するのだけれど、淡路の歴史的奥深さを改めて感じた次第。以前に淡路まで旅行したことがあり、それを思い出しながら旅行気分で楽しく読んだ。「おがみ屋」の話や「太陽の道」のこと、例えそれが小説であっても「旅と歴史」のファンにとっては充分に興味深い要素である。

 この作品は浅見光彦シリーズの中でも島シリーズの中の一冊。著者が言うように島シリーズは力作揃いらしい。ちょっと調べてみたが、浅見光彦シリーズは100冊を優に超える作品群になっているらしく、しかも未だ止まる所を知らないというから驚く。勿論、これだけ書けばなかには不調な作品も出てくるかもしれないが、それにしても膨大な作品群になったものだと思う。今までに浅見光彦シリーズ以外も含めて16冊ほど読んでいるが、それはほんの一部に過ぎないようだ。

 傾向として、主人公は浅見光彦なのだが脇に必ず美人の女性が現れることになっている。それが無いと警官やら被疑者やらむさ苦しい奴ばかりになってしまうので、その辺でバランスを取っているらしい。しかし、いつも接近するものの事件の解決とともに終わってしまう。これは内田康夫という人間の一種の「男と女はかく在るべき」というポリシーなのだろうか。・・・解からん。浅見さんの車はTOYOTAのソアラだが、カメラは何を使っているのかな。携帯は今回どうやらDocomoに決めたらしい。

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春のいそぎ

2015年03月28日 09時57分33秒 | Review
 立原正秋/講談社文庫

 2006年4月15日初版、2006年5月25日第二刷。立原正秋の作品は初めて読む。韓国生まれ、父の病没後、母が渡日したのをうけ以降日本に定住。早稲田大学国文科中退、代表作に「冬の旅」「残りの雪」「冬のかたみに」などがある。「秘すれば花」「日本の庭」など、随筆も多い。立原作品をよく読む人が言うには「血、血統、人間の業」といった背景を常に意識した作品が多いのだとか。なるほど、この作品にもそんな「翳」があるような。

 自裁した父親(陸軍中佐)、そのトラウマから何時までも抜け出せない主人公、そして何かのときに無意識に集まってくる姉達。著者が言う「滅亡の翳」が、不破家に忍び寄る。本人たちはそれを意識することなく、一見気儘な生活を送っているように見えるが、そこに流れる空気は廃退的でさえある。主人公が金箔師として生きることも「滅亡意識と浄土」という救済への叫びのようなもがきが伝わってくる。

 著者が食道癌で亡くなる二ヶ月前、使用していたペンネーム「立原正秋」に改名、本名としたというが、いかにも先祖を重視する韓国の精神文化が背景にあるように思うのは気のせいだろうか。不倫という未来の無い滅亡への誘いが迫る「春のいそぎ」であった。

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日蓮伝説殺人事件

2015年03月27日 22時21分54秒 | Review
 内田康夫/角川文庫(上、下)

 角川文庫(上)は1995年4月25日初版、1997年7月30日第7刷、(下)は1995年4月25日初版。今回は主に甲府、山梨が舞台。「日蓮伝説」などと言うからもっと宗教的な難しい話が出てくるかと思っていたが、意外にも簡素。Key Wordが「日蓮の生まれ給いしこの御堂」であるためにどうしても「日蓮伝説」が絡んでしまうという程度のもの。しかし、波乱万丈の日蓮聖人はその足跡を辿るのもなかなか難しいらしい。

 今回の「旅と歴史」では、日蓮と法華経の関係やその足跡、日蓮の活動、その人と成りについて幅広く知ることが出来た。さすが「旅と歴史」だ。そこで本来のミステリーだが、日蓮とは何の関係もない山梨の地場産業「宝飾」に関わる人々の関係を背景にしている。宝飾と偽造、詐欺、脅迫、そして殺人といったサスペンスが展開する。今回も浅見さんは東西南北に奔走し大活躍だ。殺人事件ということで暗く成りがちだが、そこは浅見さんの軽快なフットワークで救われる。

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密命 残月無想斬り

2015年03月26日 14時59分25秒 | Review
-巻之三-
佐伯泰英/祥伝社文庫

 2007年6月20日初版、2008年6月10日第七刷。二年前(2013年5月16日)に巻之四の「刺客 密命斬月剣」を読んでいるから、今回はその前作ということになる。なにしろこのシリーズは26巻もあるので読破も簡単ではない。今回の相手方主役は火血刀剣という妖剣を操る石動奇嶽なる怪人。武田信玄の「草の者」ということで、いかにも150年も昔の怨念が蘇ったような話し。この手の話しは時代モノとしてはよくあることで、それほど斬新とは言えない。しかし前回「刺客 密命斬月剣」は次々と刺客が現れたのに対して、今回は一冊を通して石動奇嶽の出現から倒すまでをジックリ書いていることで厚みが増し、読み応えのあるものになっている。

 佐伯さんはどうも「化け物、物の怪」的なものが好きなようで、作中そんなSFっぽい描写がよく使われる。それがまたその時代背景にうまく合っているから面白い。考えてみればいかにも架空なのだが、それを思わせないところがミソである。

 「八丁堀お助け同心」の尾形左門次もそうだったが、「弓張ノ月」の坂崎磐音も、今回の「密命 残月無想斬り」の金杉惣三郎も直心影流である。時代小説の作家はどうも皆さん「直心影流」がお気に入りらしい。それと、この作品には武士の守護神というものが登場する。言われてみると武士の信仰はあまり目立たないが、確かに存在する。いろいろな場面でそれとなく登場する。それが「八幡大菩薩」なのだそうな。それで「南無八幡大菩薩」なんて言葉が登場する訳である。それがまた、八幡(応神天皇)は神教、菩薩は仏教である。つまり、歴史教科書で習った神仏習合思想の代表格なのだ。これを括って「八幡信仰」と言うらしい。

 八幡神社は日本で最も多い神社で、何と8万社近くあるのだとうか。そして、寺院に本山寺(総本山)があるように、神教にもそれぞれ総本宮があるわけだが、八幡信仰の総本宮はなぜか大分県の宇佐神宮である。なぜ応神天皇が八幡信仰の神様となったのか、なぜ総本宮は大分県の宇佐神宮なのか、八幡信仰にはよく解からない部分が多いらしい。応神天皇が武士と何らかの関係があるとも思えないのだが、とにかく八幡大菩薩は武士の守護神という位置づけがあるらしい。

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沃野の伝説

2015年03月20日 22時05分44秒 | Review
 内田康夫/角川文庫(上)、徳間文庫(下)

 角川文庫(上)は1999年10月25日初版、徳間文庫(下)は2011年1月15日初版。ズバリ、米の話。この際の「沃野」は作物がよく育つ肥沃な土地を指す。内田康夫が社会派ミステリー作家と言われる代表作になるのかもしれない。あれは、いつ頃のことだったか。ブログに書いた記憶があるので、記事を確認してみると2008年の7月からだった。いろいろな企業が偽装事件を起こし、調べてみると実は日本全国何から何まで偽装だらけだったという話しである。ちょうどこの小説に出てくるような、いやもっとひどい問題であった。その頃、「農水省の闇」と言っていた事件を思い出す。

 農水省の備蓄米だったと思うが、この時カビ米、農薬汚染米事件も発覚している。備蓄米がカビてしまい廃棄または肥料にでもするしかない放出米を、処分を請け負った業者が他の米と混ぜて一般販売したというものであった。米飯用以外にも加工用としても販売していた。農水省、食糧事務所、請負業者の関係はほとんど小説の通りだったのである。しかも農水省のこの流れは10年以上も前からだという。そもそも税金で備蓄した米をカビさせ、それをまた庶民に売りつけるというのだから、こんなアホなことはなかったのである。

 内田康夫が10年も先にこの矛盾に小説手法でメスを入れたのは、作家(ポライター?)として確かな眼をもっていたからに他ならない。幾重にも反芻され、裏打ちされた、しかも素朴で根源的な道理がある。社会の諸悪というよりも、矛盾や不条理に対する反骨の精神なのだと思う。そこには左右にブレることなく、穏健で且つ普遍的な社会正義があると思う。その後、現実に発覚した汚染米事件を見ているだけに、小説とはいえ実にリアリティあふれる作品であった。

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八丁堀お助け同心秘聞

2015年03月18日 19時23分36秒 | Review
~不義密通編~
 笹沢佐保/祥伝社ノン・ポシェット

 1995年10月30日初版。笹沢さんの時代小説は、つい最近「地獄の辰・無残捕物控」でお目に掛かっている。読み切り短編風で軽快な文章だ。この作品も同様のタッチで描かれている。この作風がどうやら笹沢時代小説らしい。今回は以下六話の短編集。主人公は全編通して「高積見廻り」というお役目の北町奉行所同心、尾形左門次。又の名を「お助け同心」という。
・第一話 少女の恋・・・  おまちと清吉
・第二話 不倫の危機・・・  おさと和助
・第三話 夫婦の関所・・・  おなつ政吉
・第四話 未亡人の時効・・・  おそめと銀蔵
・第五話 悪女の失敗・・・  おくめと丹七
・第六話 魔性の火事・・・  梅太郎とおたけ

 一件ごとに助けられた者の感謝の言葉に対して「なあに、やれるだけのことをやったまでよ」で終わる。「これにて一件落着!」の代わり。市井を流す同心の伝法な言葉遣いがいかにもだ。

褒美や出世に興味なく、黙々と「高積見廻り」というお役目をこなしながら事件解決に奔走する主人公が清々しい。「地獄の辰」とは違ったカッコよさがある。

 「地獄の辰」でもそうだが、辰造がいかに難しい事件を次々解決しても、その名誉は上司の定廻り同心 磯貝源之進のものであり、黒子の役割から逃れられない。尾形左門次の場合も定廻り同心辺見勇助の黒子に徹している。同じ同心でありながらも「定廻り」と「高積見廻り」ではまるで花形役者と縁の下の力持ちほどに立場が違うらしい。しかし何故か笹沢さんは黒子が好きなようだ。

 尾形左門次の剣法は「直心影流」、そういえば坂崎道場の坂崎磐音も直心影流だった。直心影流は、正しくは鹿島神傳直心影流と言い、東国の武の中心、鹿島神宮から始まる。塚原ト伝もその一人かと思うが、島田虎之助、勝 海舟も当流の門人だったという。剣術の流派は数あれど、東国武士の正当剣術は「直心影流」なのかもしれない。

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Fake

2015年03月11日 21時49分29秒 | Review
 五十嵐貴久/幻冬舎文庫

 2007年7月5日初版の同年7月20日第二刷。Fakeは「偽物、まやかし、模造品、トリック、即興」など様々な意味に使われる。この小説では賭けトランプゲームで「ハッタリ」が最も適しているような意味合い。

 出だしはあまりパッとしない興信所調査員の話し。これが主人公・宮本剛史だ。まあ最初から最後までカッコイイ主人公ではない。唯一、相棒が幼馴染の娘・清香ということになっている。最初は大学の裏口入学の話し、でFakeと何の関係が、、、。まあ、それは読んでもらうしかないのだが、とにかくポーカーの大勝負がクライマックスだ。確かにこの場面の緊張感、ストレスはなかなかのモノだ。イカサマ対イカサマの激突のような様相で、ここだけは勝負が付くまで読み通すことになる。とても途中では止められない。最後の種明かしは手品のそれと同じで、いきなり現実に引き戻されるのだが。

 前半のダラダラは大勝負クライマックスの前置きのようなもの。568pもあるのに話しとしては単純明快。どんな迷路が待ち構えているのかと思ったが、それほどでもない。あまり複雑になっても煩わしいが、ここまで単純になるとどうかな。か、と言って、捻りすぎるのも考え物。この手の小説はやはり最初の虚構作りが決め手になるのかもねぇ。

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金融探偵

2015年03月04日 14時33分39秒 | Review
 池井戸 潤/徳間文庫

 2007年7月15日初版、2013年8月25日第15刷。7編の短編からなるが、主人公は「大原次郎」で通している。舞台背景は銀行。元銀行員の経験を存分に生かしての作品。
・銀行はやめたけど
・プラスチックス
・眼
・誰のノート?
・家計簿の謎
・人事を尽して
・常連客

 主人公は東横線小新丸子駅から徒歩10分、「コープ宮尾」というアパートの住人。業務清算に伴って銀行を辞めた一介のサラリーマン。職探しに奮闘中だ。物語はここから始まる。銀行というのは江戸時代の昔から資本の発達とともに人間の死活に関わるようで話のネタが尽きない。既に読んだ作品だけでも銀行恐喝/清水 一行、銀行占拠/木宮 条太郎等、銀行を背景にした小説は山ほどあるに違いないが、そんな中の一冊。

 確かに主人公の生活はジリ貧で切ないものがあるがその割には何だか明るい。そもそも著者の根は楽天家なのかもしれない。いろいろな相談事、事件が主人公の回りに沸き起こる。そんな諸事情に巻き込まれながら、自分を見つめ、人々の生活の機微を見つめることになる。特殊な技能や能力ではなく意外に平凡な経験、知識、日々の努力によって事件解決に迫る所が面白い。中には「眼」のようなミステリアスな作品もあるが、これは例外的な試行錯誤の一旦なのかもしれない。その他はむしろ現実的な作品である。TVドラマに採用されている「~殺人事件」でお馴染みのサスペンスやミステリーとは違うリアリティがある。

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天風遥に

2015年03月01日 22時28分49秒 | Review
-返り忠兵衛 江戸見聞15-
 芝村凉也/双葉文庫

 2014年10月19日の初版。「返り忠兵衛」もここまで来て15冊、どうやらこれで最終章となるらしい。さてどんな結末にするのやら。

 浅井さんは無理が祟って病(多分癌だろう)を得る。最後に忠兵衛と剣技を競い、武士(剣士)として満足して死んでゆく。元御側御用取次 神原采女正は再度、前藩主樺島直篤の前に現れ、共に死出の旅に出る。無理心中のような按配だが、自分たちの時代は既に過ぎ去った。新しい者たちが存分に働けるよう道を空けたのだ、ともいえる。この辺は采女正らしい決着の付け方だと思う。最終章はなかなか壮絶なものだった。

 遂に、定海藩はお取り潰しで終わりかと思われたが、筧 忠兵衛と現藩主 樺島直高の信頼により再び苦難の前途に戦いを挑むことになった。ただし、今度は藩と民百姓の仲裁役として。脱藩した者が簡単に復帰し、要職に就いたとあっては面白くもないのだが、これこそが忠兵衛流である。いや、うまいことまとめましたね。

 クライマックスが壮絶であるだけに、忠兵衛と元奥女中 紗智の未来が何とも明るくて清々しい。例え百年に一度の飢饉であったとしても、何とか乗り切れるような気になってくるから不思議なものだ。前途は多難だが一応はHappy Endで締めた形だ。数年後、「返り忠兵衛(その後)」を読んでみたいものだね。

 「返り忠兵衛」を読み出してから、まさか15冊も続きが出てくるとは思わなかったが、その面白さの源泉はどこにあるのだろうか。主人公筧 忠兵衛はともかく、この物語の存在感を担っているのは実は神原采女正なのではないか。勿論、主人公の忠兵衛だけでは地味過ぎて困る。せめて紗智や美禰の登場で、華やいだ雰囲気もたまには必要なのだ。しかし、それで15冊持たすには辛いものがある。そこはもう一人の立役者が必要になってくる。それが神原采女正である。采女正の登場でグッとリアリティが増し、物語を引き締め、立体的にしているのではないだろうか。

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