―新宿鮫Ⅴ―
大沢在昌/光文社文庫
2001年6月20日初版、2007年10月15日第10版。窃盗品密売組織の抗争、連続ホテル放火事件、街娼連続殺人事件、そしてフラメウス・ブーバの進入。一本の小説にこれほど盛り込むのはいかがなものかと思う程盛られているのが今回の新宿鮫。しかし、錯綜したこの展開がいかにも何でも在りの新宿にふさわしい。これほどではないにしても多種多様な人間が集まってくる新宿という街には確かにこんな雰囲気が漂っている。
現代の他民族社会を象徴するようなストーリーである。そんな中にあって鮫島刑事の活躍は派手ではないが、世の中の流れに抗うこともなく、黙々と仕事に向かっている姿が、キャリアから外れた特別な警官という立場からか、いかにも孤独である。今回は、消防の吾妻、防疫の甲屋といった協力者(理解者)が登場するが、通常は鮫島が黙々と刑事の仕事をするというのが常らしい。これが、著者が追求する正義であり、人間であるように思う。
ただ、今回は抗争中の連中は勿論、主人公を含めて怪我人続出だった。相棒を勤めた植物防疫官の甲屋もいっている「刑事の真似はあまり健康によくないな」と。