―刑事・鳴沢 了シリーズ―
堂場瞬一/中公文庫
2005年6月25日初版、2008年12月5日第14刷。このシリーズは「疑装」で既にお目にかかっているが、不連続に「熱欲」になってしまった。鳴沢刑事のイメージは、スーパーアクションがあるわけでもなく、特別な推理や予見があるわけでもない、結構地道なものである。通常、この手の小説では派手な展開やアクションが付き物なのだが、それが無いだけになかなか盛り上がらない。しかし、現実にはそうしたもので、静かにジワジワと進んで行くものなのだろう。それが、著者が考えるリアリティなのだと思う。この静かなリアリティは作品全体に貫かれている印象がある。
また、478pに及ぶ長編でありながら、今回の死亡人は川村兄弟、大沢利二の三人だけで、この手の小説としては極めて少ない。通常、やたら死人だらけになってしまうが、そんなところにも著者の考えるサスペンスのあるべき姿があるようだ。それに主人公の人間臭いところ、結構堅物で生真面目なところが魅力なのかもしれない。
「ランクルがガレージに突っ込む」という場面がある。ここだけは違和感がある。前段何の説明も無くあまりに唐突に。内藤七海刑事が監視している場面、少なくともランクルが突っ込む具体的なシーンがあっても良かったのではないかと思う。
主人公鳴沢刑事は青山署の生活安全課を経験することで、人間として幅の広がり、人の痛みを知る成長があったと思われる。次の作品では、刑事課に戻るようだが、きっと一皮むけたベテラン刑事として登場するに違いない。
・内藤優美との関係はこれで終わりか
・内藤七海はワンを捕らえることが出来るか
・鳴沢を待ち受けている次なる事件は
いろいろと気になることはある。それにしても、鳴沢刑事が女のために花を買う?
それは全編通して珍しいことだ。