つむじ風

世の中のこと、あれこれ。
見たこと、聞いたこと、思ったこと。

贅肉

2015年09月29日 22時38分12秒 | Review

小池真理子/中公文庫

 1997年2月18日初版、2002年2月15日第六刷。新聞などでお名前はよく見かけるのだけれど著者の作品は読んだことがない。特段魅かれたという訳ではないが、たまたま手に取る機会があり、読んでみた。長めの短編で以下の五作品が集録されている。

・贅肉
・ねじれた偶像
・一人芝居
・誤解を生む法則
・どうにかなる

 どれも、独特の(表現し難い)文体(雰囲気)で読者を引き込むのがうまい。この得体の知れないミステリアスな不安、喪失感、孤独感は何ともいやらしい。気持ち悪いけど先を読みたくなるのだから巧みである。このような作品ははなんと言うカテゴリーになるのだろうか。ミステリー&サスペンスとは違うように思うし、オカルトの類でもない。解説者の朝山 実さんによれば「サイコホラー」などと言うらしいが、なるほどね。

 どの作品もそうだが、そんな事があるわけないよと思いながら、妙なリアリズムが押し寄せてくるから不思議だ。しかもそれが生々しいから気色悪い。おそらく自らの心の中にも「そう考える」瞬間があり、心ならずもイメージが湧くからだろうと思う。そんな心象を描く巧みさは半端じゃない。
 どのような取材、或いはきっかけがあってこんな作品が生まれるのか知るよしも無いが、これもまた小説の一つの面白さなのだろう。



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ポーカー・フェース

2015年09月23日 12時05分32秒 | Review

沢木耕太郎/新潮文庫

 2014年5月1日初版、2014年5月20日第二刷。先日読んだ短編集からはちょっと想像できないが、どうちらかというとこのエッセイ集の方が本職なのかもしれない。著者は決して多作の作家ではないが、この関連のエッセイ集としては以下のようなシリーズになっているらしい。

・バーボン・ストリート(1984)
・チェーン・スモーキング(1990)
・ポーカー・フェース(2011)

 「ポーカー・フェース」を読んで、凡そ著者の性格、趣向、スタイルがわかる。取材と称して世界中をめぐっているらしい。その旅慣れは相当なものだ。従ってそのエッセイもおのずとワールドワイドになる。しかし、世界旅行記的なことはなく、軸足はあくまでもブレない。あくまでも沢木耕太郎のエッセイなのである。個性的な方々の登場が実におもしろい。

・男派と女派
・どこかでだれかが
・悟りの構造
・マリーとメアリー
・なりすます
・恐怖の報酬
・春にはならない
・ブーメランのように
・ゆびきりげんまん
・挽歌、ひとつ
・言葉もあだに
・アンラッキー・ブルース
・沖ゆく船を見送って

  著者はあまり賭博、或いは賭け事はやらないようだが、それでも時にバカラに熱中したことがあるらしい。そこで登場するのが色川武大さんだ。どうもこの時代、著者にしても伊集院さんにしても賭け事とくれば色川さんを除外しては語れないらしい。
 それにしても「恐怖の報酬」の山野井妙子夫人には恐れ入りましたね。確かに(その筋の)本職もビックリというものです。上には上が、とはこのことでしょうか。




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火花

2015年09月21日 09時04分06秒 | Review

又吉直樹/文藝春秋

 2015年3月15日初版、2015年8月10日第16刷。著者の作品は共書を含めて4~5冊あるようだが、今まで読んだことはない。「火花」は直近の直木賞受賞作品で、にわかに出現したように見える。特に話題性があったのは、話しの内容と同じように現役のピースというコンビの「お笑い芸人」であることだった。私はTVのお笑い番組はほとんど見ない。したがってピースがTVに出ていたかどうか、勿論どんな芸風かなど知る由も無い。また、順に回ってきた本の中にたまたま「火花」があったということであって、特に拘って購入した訳でもない。そんな訳だから、ただ純粋に先入観なしに読めたと思う。

 登場する人物は極めて少ない。それに小説というよりは八割方自伝的私小説であるようにも思う。別にそれが悪いという訳ではない。ただ、創作(小説)という意味からすると、かなり離れているように思うのである。いや、この話は創作だというのであれば、逆にこれはかなり立派な小説ということになるのだが。

 直木賞を射たポイントは、「~しまうのだけれど」というつなぎで伝わってくる痛々しい自己分析の連続、そして106p「市場から逸脱した愚かさを笑う」世間の嘲笑。そんな紙一重の中で頑張る挑戦者達の心象風景なのかもしれない。一冊としてはかなり薄い本なのだが、中身は「お笑い芸人」に似合わない重さがある。

 しかし、ベージュのコーデュロイパンツの話はさすがに「お笑い芸人」、思わず噴き出してしまった。逆に、師匠・神谷才蔵の豊胸手術はとてもじゃないが笑えない。



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あなたがいる場所

2015年09月20日 18時53分01秒 | Review

 沢木耕太郎/新潮文庫

 2013年9月1日初版。著者の作品は初めて読む。何でも「ろくな小説が無い中、まともな作家として値するのは沢木さんくらい」という評価なんだとか。その人にとっては信頼の置ける人と成りである作家らしい。で、推薦があって読んでみる機会を得た。推薦された方は、かなりの本読みなのだが「どうなんでしょうね?」と言っていたのだけれど。

 「あなたがいる場所」は短編集で、この厚さで9編もの短編を集録しているから一つの作品はかなりの短編である。いつもであれば、この手のものは何かしら物足りないものを感じるのだが、意外にもそれがあまり感じられなかった。また、一つ一つの作品が何だかとてもピュアに感じられ、印象深い。このような小説を読むと、何と人間は常々岐路に立ち続けているものなのだろうと思う。一見平凡なように見えても一瞬一瞬の出来事の中で自覚の有無に関わらず、決断が連続しているのである。そんな中、少なくとも小説は、少し高い所へ、少し明るい所へ、少し広い所へと向いているのが救いである。これが狭く、暗く、下へ向かっていくのであれば救われない。

・銃を撃つ
・迷子
・虹の髪
・ピアノのある場所
・天使のおやつ
・音符
・白い鳩
・自分の神様
・クリスマス・プレゼント

 簡素な優しい文章であるが故に、透明で鋭利な剣が突き刺さるように迫ってくる。どなたかの言葉に「小説は短い方が良い」というのがあるが、その言葉を証明するかのような短編集になっている。著者には長編が多いようだが、いつの日か、その作品に出会うときがあることを楽しみにしようと思う。

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ネガティブ

2015年09月13日 10時31分57秒 | Review

赤川次郎/集英社文庫

 1998年9月25日初版、2012年4月15日第二刷。赤川作品は「群青のカンバス」に次ぐ二冊目で、とても作風を評するレベルには無いが、著者はとても多作で作家としての名前は知らない人はいないだろうと思われるだけに、今までなんとなく遠慮していたような具合である。実際読んでみると軽妙で且つ読みやすい。その傾向は「群青のカンバス」でも共通するものがある。このカテゴリーを「ユーモア・ミステリー」などというのだそうだが、なるほどこんな作風もあったのかと改めて思う。

 但し、好みの問題だが自分の感覚で言えば、この作品は軽すぎる。やはりもう少し深刻なのがいいと思う。当初、作家角田博紀が主人公かと思って読み進んだが、最後は完全に女房の角田僚子が主人公になっている。このスイッチはまあよいとして、角田博紀の影のようなモノと角田僚子の影のようなモノが出現する。現実(ポジ)の角田夫婦に対する、影(ネガ)のようなモノである。他の作品を読んでいないから解からないが、この辺がユーモア・ミステリーといわれる所なのかもしれない。自分としては、この手のマジックはあまり気乗りしないのだが、これが赤川作品の特徴なのか。

 しかし、赤川流ユーモアの良さ、面白さの真髄は、もっとより多くの作品を読まなければなかなか解からないのかもしれない。ちょうどスープの隠し味みたいな具合にね。




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美女消失

2015年09月05日 11時28分02秒 | Review

―悪漢刑事―
安達 瑶/祥伝社文庫

 2010年6月20日初版、2010年7月1日第二刷。著者の作品は他に読んだことは無いが、いつも「美女消失」のようなハードボイルドを書いているのだろうか。実は著者は「男女の二人一組」なのだという。何だかよく解からないが、かなり幅広い作風で、何でも書くらしい。何といっても二人分だから。今回の作品も、刑事モノであり、スパイモノであり、官能モノでもある。

 主人公は鳴海署の佐脇刑事。確かに不良の刑事で、品行劣悪というか醜悪というか、でもその割には憎めない。その不良の具合が強いものにへつらわないということで主人公足りえるらしい。今回の作品でちょっと違和感があるのは、やはり「人民解放軍総参謀部二部三局」だろう。たとえ某国がそれに近い情報収集活動をしているとしても、いくら何でもこんな所にこんな形で現れたりはしないだろう。その辺がやはり小説である。

 警察モノと来れば、アクションは付き物だが、この作品も御多分に漏れず、最後に船上の格闘シーンがある。いわゆる「殺陣」というやつで、その迫力はなるほど確かなものである。著者の作品には時代小説もあるようなので、「殺陣」がどのようなことになるのか是非一度は読んでみたい。




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殺人の祭壇

2015年09月03日 16時39分35秒 | Review

森村誠一/双葉文庫

 2012年10月14日初版。最近はかなり遠ざかっているが、随分昔に「人間の証明」でお目にかかっている。何よりも、若い頃会社の同僚と霧積あたりから軽井沢へ山越えするハイキングをしたことがあり、霧積温泉には泊まらなかったものの、霧積の印象はよく覚えている。そのために「人間の証明」もよりビジュアルにイメージされるのかもしれない。「人間の証明」は映画化もされてかなり有名なのでそれを知っている方は多いと思う。その後、読んではいないが「悪魔の飽食」もベストセラーだったように思う。何でも著者の累計発行部数は1億を超えるらしい。

 今回の話しは「古沼死体遺棄事件」と「荒川河川敷廃屋殺人事件」の二つの殺人事件のミキシング。二つの事件は関係があるのか無いのか、最後まで判らない。これを「祭壇」というのかどうかは別にして、「関係がありそうで、なかなかつながらない」ところが読みどころか。
 それと、一応主人公は北村直樹という作家であるが、あまり主人公らしくない。特別なヒラメキを連発する訳でもなく、警察に特別つながりがあるわけでもない。むしろ活躍するのは厚木署の松家刑事、熊谷署の石井刑事である。多くは警察が得意な(地道な)人海戦術ばかりなのだが。

 肝心な所は、関係者「秋本道夫、田巻敬造、新屋重雄」が既に死んでしまっているので、本当のことは想像をたくましくするしか手が無い。今も昔も変わらない死人に口なしというものである。最後に作家北村直樹の口を借りて「青春の幻影は確認しないがゆえに美しい」というのが、この作品の言いたいことであったのか。誰にでも一つや二つ覚えがあるに違いないほろ苦く懐かしい青春の風景である。



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