梨木香歩/新潮文庫
2015年10月1日初版。著者の作品は初めて読む。小説かと思って読み進むとエッセイ集だった。子供の頃の思い出が多い。しかもかなり鮮明に。著者は「自分の個人的な顔や個人情報を表に出さないタイプの作家の一人」なので、公表されている「人と成り」はほとんど判らない。藤本英二さんの藤本通信(Web版)「隠し部屋2号室」の「梨木香歩の世界」を拝見して、なるほど、ただ者ではないなと納得した。もって産まれた感性というか才能というか、大地(土)が放つオーラを信頼し、生物一般に対する生命への愛情、在るべくして在る中に存在の意味を見出す。
見るもの聞くもの触るもの、全てが新鮮で興味深い。そんな赤ん坊を見ていると「この世に生まれたての頃の気分」が甦ってくるという。これは女性ならではの感覚なのかもしれない。また、「生に対する執着が薄まっている」「世界に新鮮味が感じられなくなる」「発見するものが少ない」生命の変容の次のステージを迎えるための自然な変化であり、無理に気持ちを若く持つ必要もないのではないか。・・と思いつつ「世界を新鮮に感じる」ことの大切さは必要。そこで、手っ取り早く「生まれたて」気分になるには「引越し」なんだとか。
そして著者から見た「人間というものはそもそもこの暗闇というものを抱え、暗闇に翻弄され、右往左往するように産まれついているものなのかも知れない」。ただ、この「暗闇をどう処理するのかという問題は大きい」。そのくらい「暗闇」の存在は大きく、そして力がある。まともに対応したのではなかなか立ち行かない。そこで「逃げ足の速さは生きる力」だと言い放って止まない。ありとあらゆる「存在」に対する幸せさがし、まことにもって不思議な方だと思う。いかなる条件も制約も附帯もない、全くの自由人だと思う。